にしむらさん

今日は新しい伴奏者の方を連れてきての、初伴奏合わせレッスンとなった。
彼女の声は前回と変わらず、安定していた。
1点C~3点Cまでの2オクターブは発声練習では、滑らかに正確にまた良い転がり方だ。
強いて言えば1点C~2点Cの間は、開口母音でやや響きが落ちる傾向が残っている。

全体に非常にコンパクトかつ緻密な声になりつつある。
コンパクトというのは、無理をしないために、軽く、かつ芯はきちっとあるもの。
そのため、高音域も安定している。
安定して歌える、というのは強みである。
余裕が出るから、表現に意識が回ると思う。
そのことを大切に歌を扱ってほしい。

欲を言えば声の揺れが残る。ほとんど無意識に出ていると思うので、これが意識出来ればノンビブラート、あるいはビブラート
自由自在に使い分けできるだろう。
声はビブラートだけが良いのではなく、真っ直ぐなノンビブラートにも声の魅力は大きくある。

曲はフォーレ「マンドリン」から。
歌は基本的にきちっと歌えているが、やや一所懸命な感じが出てしまい、この曲の持つ味わいに欠ける。
もっと楽しげでユーモアに満ちた曲である。
それほど音域が広いわけではないし、声楽的に難しいというのでもない。
力まないで、リラックスして楽しく歌おう。

中間部の前までは、リズム感を大切に。
手拍子を打つとそのリズム感が判るだろう。
歌で拍子を取る、という意味ではない。
歌の核になるビートを手拍子感覚で持って欲しいということ。
大衆的で民謡的なイメージがこの音楽の底にあると思う。

中間部はがらっとイメージが変わる。
それまでの祭りの最中の状態から、少し引いた風景である。
遠くに見える祭りを

「リディア」は彼女の声の美点が良く出ている。
熱さと可憐さが程よくマッチしている。
中低音の声も上手く処理できるようになった。
伴奏はシンプルなだけに和音の響きを大切にして欲しい。
全体に宗教的なイメージで、オルガンの重厚な響きをイメージして欲しい。
テンポも軽すぎないで、じっくりとしたものを大切に。

「宝石の歌」は歌は良い。後はピアノとのアンサンブルをしっかりしてほしい。
特にテンポの変化、ダイナミックの変化を大切に充分表してほしい。
伴奏はピアノではなく、オケなのでオーケストラの音楽を良く聴いて、それに準じた演奏を考えて欲しい。

まつもとさん

初めていらっしゃった方。
合唱を長く続けてらっしゃるが、ソロの声としても芯がきちんとあって、発声を良く研究されていることが分かるものであった。
声の資質はどちらかというと、メゾ傾向があるが、ソプラノとしても充分出来るもの。
恐らく発声に起因するもので、軽く明るくもなるし、重くも出来る比較的キャパシティの或る喉なのだろうと思う。
現在の彼女の発声法もあるし、彼女の音楽や歌に対する趣味嗜好性もあるので、一概に言えない面もある。
少し様子を見て、発声を教えて行きたい。

発声の様子、あるいは歌う様子を見ていると、身体の使い方に注意深く、腰を落として背中を使うようにしている。
実際に曲を歌う中で、傍で観察すると、かなり背中を使ってらっしゃる。
或る面で声量を大切にする、しっかりした歌い方だが、ややそれに偏る余り、開放感、あるいは明るさに欠けると思う。
あるいは2点F以降の高音域でも、わずかだが重さが強調されるために、恐らくもっと高音に行くと出しづらくなるのではないだろうか?

また、アなどの開口母音になると、下顎を大きく下ろしてしっかり発声する。
これは高音域で強い声を出す際に有効だが、なんでもかでもそうするものでもないだろう。
恐らく開口母音で、特に上昇形のフレーズだと、声が重くなって高音が出しづらいだろうと推測される。
エで発声をやってみると、意外なほど軽く、彼女が舌根や下顎に頼る発声であることが判る。一概に悪くは無いが、もう少し脱力させて自由に出来る発声も覚えたい。
そのことで、高音はもう少し軽やかに出せるようになるだろう。
現に、エの母音では2点hくらいまで、難なく出せていた。
恐らく、深さを感じないので嫌なのだろうが、本人が思うほど浅薄な響きにはなっていないのである。
逆に、自分で満足している深い発声が、実は暗くこもっている、ということが多いものである。

フォーレLydia イタリア歌曲Tu lo sai, LAscia ch’io piangaなど聞かせてもらった。
一番感心するのは、ただ声を出して歌うだけではなく、きちんと表情、ニュアンスを考えて歌おうとする姿勢が随所に見られることだった。発声としては、中音域がやや暗く♭になりがちである。
口の使い方、特に下顎の使い方には注意が必要だろう。

後は基本的にやや背中や腰に注意が行き過ぎて、逆に猫背というか背中を丸くするのはいかがなものだろうか?
何事もほどほどだと思う。
もう少し背筋は普通に伸ばして、胸も適度に高くしたほうが、特に高音域は明るい高い綺麗な響きが出やすい面もあるとおもう。
太い声質と声量だけではなく、胸を楽に開いていく方法によって、高く明るいフレージングも出来るようになるのではないか?

まあ、追々色々な発見があると思うので、じっくり教えて行きたいと思う。

のうじょうさん

今日は高音中心に軽めに出るような発声を心がけた。
低音から上向形、あるいは母音をイなどでやらないで、始める音域を高めにして、下降形を中心に始めた。
また軽めに練習するために、早めのフレージングなどを心がけた。
声は調子が良い。
中低音もきちっと出ているし、最高音域も安定している。

今日はほとんどをピアノとのアンサンブル、テンポの設定の確認などであった。
プーランクの歌曲「冗談の婚約」は、シンプルでこじんまりした曲だが、それだけに基本的なことが如実にに演奏に反映される。
1曲目の「アンドレのご婦人」は最初の通しでは、どうにもテンポがフラフラとして、どこか紐の解けた靴をふがふが履いて歩くような
面映さが感じられた。
これはピアノだけの問題ではなく、歌手もきちっとしたテンポ感の意識が希薄なのではないか?
どうだろう、何か音楽につかみ所がないのではないだろうか?

この歌曲集の演奏でお願いしたいのは、フランス語の語感がどう?とか、細かいニュアンスがどう?とかそういうことだけではない。
そういうことも出来れば大切にして欲しいが、それよりももっと基本的なところが、きちっとして欲しい。
特に音楽の骨格に関わるテンポである。
一見退屈かもしれないが、テンポをきちっとさせること、それを演奏に反映させることが出来るだけで、数段クオリティの高い演奏になるのである。それだけで、作者の創造意図の少なくも半分は伝わるはずである、それくらい大切なことなのである。

例えば、Il voleなどは早いテンポで語り口も細かく早いのだが、それをテンポ通りに練習するだけではなく、まずは4つのビートで
きちっとさせること。それから2つ振りを意識して歌う練習へ持っていくこと、などである。
それから、早口に任せてブレスをきちんとしないと、次のフレーズが弱くなってしまうこともある。
ブレスのタイミング、ポイントの確立ももう一度良く見て欲しい。

また、Fleurも歌が軽い方向に流れてしまい勝ちなのではないかな。
これは指示のテンポ四分音符=56をきっちり守って欲しい。

テンポというものは、奏者の音楽的イメージが確立していない場合、言葉の意味と同時に、そのテンポを確かめることで
作者のイメージを追認する大事な要素があると思う。
同じ曲でもテンポを変えることで、イメージががらっと変わってしまうことがあるのだ。

ティレジアスの乳房の方は、全体的な骨格も良く、声も充分に響いてなかなか良い感じになってきた。
笑い声の高音からの下降形3連符も素早く処理できるようになった。
基本的なテンポがやや緩んでいたので、再確認。
出だしは緊張感溢れる出だしなので、テンポが緩まないように注意して欲しい。

音楽の節目、変わり目の処理は改善された。
高音の声もとても調子が良い。
面白い曲だが、現代的だしフランス語なので、ステージ栄えさせる意味もあって、ちょっと工夫を凝らすことにした。
本番が楽しみである。