発声は調子が良く、喉だけではない、息の流れる声になっていた。
それに身体を一所懸命使う発声は見ていて気持ちが良い。
彼女はどうも低音が出やすい喉みたいで、1点E~Gくらいの間で気をつけないと地声になりやすい。
それでも上から降りれば、どうにか1点Eまでは持ちそうだが、その下は気をつけないとくるんと直ぐに地声になる。
結構大きな声帯をしているのだろう。

コンコーネは5番から。こちらは復習でOK.
6番は階名で歌ったが、変化音が多いのとちょっと離れた音程が上下に多いので、階名唱法が難しくなっていた。
絶対的な音程感が養えていれば、この方法で読むのも悪くないのだが、それが無い場合はかえって難しいのではないか?
少しばかり時間を割いて楽典の基礎を話したが、移動ドで読むためには、知識が必要になるのも、また難点ではある。
要するに音が取れれば良いわけで、なんとなくでも良いから何度も音程を歌いながら覚えていって、譜読みすれば
将来的には音程感がつくと思う。
最後に7番も譜読みの導入をした。複付点4分音符と付点4分音符の違いを説明。
どちらも2拍単位の考え方を基礎にすれば、分かりやすいはずである。

曲はプレヴェールのシャンソン「寓話」から。
今日は一発で合格!フランス語もちゃんとしているし、譜読みも完璧。
強いて言えば、どら猫が出てくる前のト書き部分で、少し早めに。8分の6を2つ振りで歌うと良いと思う。
その代わり、どら猫自身の語りのところは戻して少しゆっくり目が良い。
日本語歌詞でも歌ってもらったが、やはり聞く立場としてはこちらの方が面白い。
本人はフランス語が良いと言っていたが、なぜだろう?

最後に18世紀ロマンスからVenez agreable printempsを譜読みの練習。
譜読みに時間がかかるが、じっくりやって行こう。

たかはしみかさん

発声は軽く喉を暖める程度。

声質は全体に大分良い感じになってきた。
喉が楽になってくると、彼女のとろ~っとした響きはなかなか良いものがある。
あとは、中音域に厚みをつける様に意識できれば、もっと日本人離れした声でよいのだが。。。
それから付加的なビブラート。ロングトーンを出してもらうと、かなり喉が揺れている。
これがなぜなのか?は良く分からないが、喉で揺らすビブラートをつける癖なのだろうか。
必要がないときにも伸ばすとすぐについてしまうのは、好印象を与えないと思う。
息の力で自然に出てくるビブラートが良いと思う。

ところで実際の歌を歌ってみると、イの母音の特にチェンジ近辺がなかなか難しい。
多分、ポイントが前過ぎるのではないだろうか?
これは根本的に変えないと、治すのは難しいだろう。
その代わり、チェンジによる声質の違いを利用すれば、ある程度は応用が利くのではないだろうか。
中くらいの押さない声というよりも、完全に裏返した感覚で出すか、思い切り当てるか、どちらかを選択すれば、雑音なく処理できる。
その選択を常にはっきりと意識しなければならないが、当面はそれで逃げられるだろう。

シューベルトseligkeitから。
こちらは声としてはほとんど問題は感じない。後は、1番~3番だったかな?歌い方の違いが、歌詞の意味からイメージできるようになれば
本物だろう。

トスティのTormentoは、何といっても最後の節の母音イのひび割れ現象。
声自体を完全にチェンジさせて対応しないと、どうも難しい状態である。
考え方としては、どうやってもひび割れてしまうということが、現在の発声の問題なのだから、今の発声の方法をどういう風に意識しているのか?ということを自身で良く理解して、分析してみることだろう。

ここをこうやって、ああやって、こうなっているという風にもう一度自分の発声の方法を説明できるようにして欲しい。
そこから、どこがどうなってこうなるのか?という答えが導き出せるだろう。
ボイストレーナーなのに他人事みたいに書いているが、さすがにこればかりは本人の感覚が頼りである。
この曲は歌としては、前回よりもはるかに洗練されて表現を考えて来ていた。
最後の声の問題さえクリアできれば、言うことは無い。

ベッリーニMa rendi pur contento
これに限らないが、高い音に跳躍する時、高音側の音程がやや♭になる癖がある。
これはなぜだろう?ただ、以前うるさく言ったずり上げる癖がなくなっているので、その辺りが原因かもしれない。
後は中音域はもっと厚みのある声が出るのだから遠慮せずに厚みのある、豊かな響きを出して欲しい。
メゾとかソプラノとかいうことはまったく関係ないことである。

わきくろまるさん

発声練習は下降形で2点Dから始めた。少し上がって降りるように。
彼女は抑えた声に拘っているのだが、実に美しい良い声を出す。
何より柔らかくて支えが効いている。
2点Gくらいから少し締めるというか、声帯を合わせようとするのが聴いて取れるのだが、あまり気にならない。
それでも3点Cまで良い調子で出せている。

少し残念なのが、歌になると途端に喉が上がってしまうこと。
発声練習は思い母音のアでやることが多いのだが、恐らくそういう母音の出し始めの感覚と
言葉がついたときの、フレーズの声の出し始めの喉のポジションに感覚的な相違が大きいのだろう。

逆に言えば、アだと上手く行くのなら、他の母音や子音がついても、いつも喉をそのアで上手く行く感覚を応用して
出すようにしてみて欲しい。
ただ一点、喉が上がってしまうことだけである。
声質そのものの、方向性は悪くないと思う。

もう一点は、仮に抑えた中高音域が上手く出せると、今度はフォルテの声への切り替えがどうも上手く行かないこと。
今日は結構何度もやり直して中高音域のフォルテの声を練習した。
何か怖がって、奥にこもって入ってしまう。
どうもまだまだ喉が緊張してしまうようである。

強声は、喉を緊張させないことと、息の力で出そうとすることである。
喉を緊張させると、喉自体をぎゅっと閉めて呼気の力でそこを爆発的に開けようとして出すから、喉を痛めるのである。
緊張しないで、喉がリラックスしていれば、後はお腹の呼気の力だけを使えば自然に出る、と思って出すのである。
エヤイなども声が当たりやすいが、彼女にそれをやらせようとすると、どうもかえって締めてしまって良くないようであった。

この辺りが私にも分からない彼女特有の発声なのだが、スタッカートと合わせて苦手なのは、何か声を出す瞬間の喉の使い方に
特徴があるのだろう。

声は一つのことばかりやらないで、例えばコンとロールする練習をしたら合わせて、しっかり出すこともやっておいて欲しい。
発声は固定的にならないように、柔軟に対処することを大切にして欲しい。

以上はベッリーニAh non credea miartiの感想。
ただ、前半はとても良くなったし、後半もどうにかの線まで到達し、合格ラインぎりぎりに。
最後のカデンツもとても練習したね~という印象が強かった。
彼女は本当に良く練習する人だ。そういう点も買いたい。

最後にモーツアルトのドン・ジョヴァンニのBatti o bel masetto
これがなかなか可愛いツェルリーナちゃんを表していて、彼女のキャラクターの一端を垣間見た気がした。
キャラクターと言うのは声のことではなく、性格のようなもの。
彼女の声はどちらかというと成熟した女性の声の特質の印象が強かったのだが、意外とこういう役が合っている気がした。

まずイタリア語の発音はまだまだ直して欲しい所がある。
BattiとかMasettoなど、そのままカタカタで読むと、バッティ、マゼットと読むが、この小さいツのある拗音はなくして欲しい。
イタリア語を読んでも詰めて読むのではなく、廻すように、バ~ティとかマゼ~トと読むだろう。
要はアクセントが明快にあるだけで、母音を長母音化するだけで良いのである。
zerlinaもツェルリーナのルもまともにルと読むと母音が余計に一個入る。RとLが繋がっている二重子音だから、絶対に母音を入れないこと。
声の扱い方は前回より進歩あり。最初は母音だけLiで練習をした。要するに母音を徹底して強調してレガートに歌うこと。
音程の違いや言葉の母音の違いで、響きに凸凹がつき過ぎないようにしてほしい。
滑らかにしかも響きの均一が大切である。勿論リズムもである。
言葉のアクセント部分や、強拍だけが強調されてしまい勝ちだからである。
彼女は良く言えば言葉をきちんと発音するのだが、それがまだ歌唱法、発声と緊密に繋がっていないこともあるだろう。
その辺りはこのモーツアルトで勉強の要あり。

つげさん

1年半ぶりくらいでやってきた。
ハワイに留学と仕事で行っていたのだが、再び帰国。
また、こちらで仕事を見つけて頑張るらしい。
しっかりした人で、人生設計に抜かりがない。
考え方もしっかりしている。
というか、私なぞに比べれば、当たり前のことをきちんとやっているだけなのだろう。

久しぶりに聴いた声はまったく代わりのないものであった。
それは、高音が非常に出やすい喉である。
ただ、少し喉を下げる力が強いため、発声練習は気にならないが、歌詞で歌うと時々喉っぽい、カスカスとした響きが気になることがある。

喉を下げて共鳴を強くして出すような出し方なのだろう。
あたかも笛のような響きである。
上手くはまるとビブラートの少ない、ボーイソプラノ的な響きで、バロックやルネサンスのマドリガーレなどお似合いなのだが
逆に中低音が響きにくいのがたまに瑕である。
この発声を根本的に変えるのはとても難しい。
それよりも声に合ったレパートリーを探して、良く歌うことをする方が余程意味のあることだろう。

今日は彼女がかつて歌ったことのあるヘンデルのアリアからSe il timore Da tempesta il legno infranto Brilla nell’alma
など歌って楽しんだ。特に速いテンポのものはお得意で、良く歌う。
それに素直な声なので、曲の美点が直截に感受できて好ましいものがある。
洗練と言うのとは違うが、爽やかさがある。
また機会が出来たらぜひ歌いに来て欲しい。