声のことは、本番まで気にする必要はないだろう。
強いて言えば「うつろの心」の出だしだけは、きちっとした良い声を出して出て欲しいことくらい。

それから「私の愛しい人」は。前半のSenza di et languisce il corはブレスを入れないことに決めて欲しい。
決めておいて本番に歌ったときに入ってしまってもそれはそれで構わないから。

後の曲は全てピアノとのアンサンブル。
ピアノ伴奏の音楽は、特に彼女みたいな初心者には大事だ。
すべてストレートにイタリアらしい感情の起伏が大きくてはっきりした音楽を弾いて欲しい。

そうすれば、彼女はそれに応じて、あるいはそれに鼓舞されて、彼女の持っている良いものを全部出してくれるはずである。
彼女はそういうタイプなのだ。

特にO cessate di piagarmiは悲しくて沈んで歌っているのではなく、悲しい!と大声で公言しているのである。
内面的にならないで、外に向けてはっきりと。これはピアノも歌もである。

声はまだクラシック声楽的に洗練されているわけではないが、歌の一番コアにあるハートが彼女にはある。
それが浮き彫りになれば、今回は成功だろう。
物怖じしないで、自分のハートを信じて集中して歌ってくれれば今回は大成功。
本番を楽しく迎えて欲しい。

すぎたさん

とにかく、いままで教えたことが結実すればとてもよい演奏が出来るレベルにまで成長したと思う。
そういう演奏が今日は出来ていた。喜ぶべきである。
たとえ本番に思うように行かなくても、私としては後悔はしないだろう。

今日は、最初のパミーナのアリアでお腹をまるで使わない声だったので、徹底してお腹を指示した。
時折お腹を使うことと喉を開けるタイミングがずれて、喉で出してしまうこともあった。
だが、どう転んでもお腹を使って歌うことだけは忘れないように。

パミーナの前奏は短いので、それまでのつながりを想起して重く出て欲しい。
声は前述の通り。
フォーレの「祈りながら」はピアノの3連符の3拍目4拍目が流れてしまう。
どの拍も均等に。そうしないと歌と一緒にだらだら流れてしまう。
高音は力まないで滑らかに丁寧に出そう。
そうすれば、喉が締まらないで後々に影響が出ないだろう。

リディアは言うことがない。「祈りながら」の高音で喉で出してしまった時は喉が開かない中低音で歌いにくそうだった。
この辺はこれからの課題だろう。
後は風邪に気をつけて、本番を楽しみにしている。

はなむらさん

彼女には初めての発表会らしい発表会になるのだろうか。
少々神経質になっているようだったが、何も心配はない。
今日も発声練習もせずにいきなり合わせて見たけど、まったく問題ない。
特に暗譜はしっかり出来ていて、彼女の頭のよさ、手順のよさ、みたいなものを感じた。
良く考えているし、良く勉強していると思う。

後は無心に歌うばかりである。
この期に及んでディテールを問題にしても仕方がないので、言わない。
大切なことは、本番の演奏への情熱と集中を育てることだけである。
強いて言えばSebben crudeleは段々軽くなる傾向なので、ピアノ共々もう少し重くしっかりした方が良いだろう。

ヘンデルのアリアは、彼女には難しい課題だったかなと思ったが、本人の希望を尊重して良かったと思えた。
まだスケールにおいては小さいが、きっちりと確実に歌えるようになった。
今は小手先にこだわらずに、とにかく集中しかない。無心に、である。

アリアの出だしは音程が上ずらないよう、中低音の声を良く響かせて出られれば、後は上手く行くだろう。
バッハBist du bei mirは、これも本人の努力の賜物でがならない歌になる、本来のこの曲の良さが出てきた。
努力と研究に感心!
本番が楽しみである。

ふかやさん

暗譜はしっかり出来ているね。声は未だ喉で歌ってしまって、時々失敗しているが、本番は1回通すだけだから大丈夫だろう。
ただ、そろそろ喉で逝ってしまう癖を直したほうが良いだろう。

それはフレーズに入る準備とブレスである。
特に高音を出したフレーズの直後などに、短いブレスで再度高音に入ると、準備がまるで出来ていない喉で歌ってしまう。
こういうタイミングをどうとるか?どうしたら短いタイミングで準備をきちっとして発声できるか?
これからの大切な課題である。

アヴェ・マリアはどのフレーズもアヴェ・マリアという言葉を大切に。Pイコール声を落とすではないこと。
Segretoは、ピアニストは音楽でのんびりしないこと。激しい歌である。
歌はとてもよい。怖がらないで歌いとおして欲しい。
セレナータは、これも伴奏でテンポがのんびりしないように。
手拍子足拍子でお祭り気分で楽しく歌って欲しい。

ともあれ、今回はどの曲も怖がらないで思い切り歌うことだけ、集中して欲しい。
この期に及んで声のことで神経質になると、良いものも出なくなってしまう。
いつものふかやさんの大らかで伸び伸びした歌声を聞かせて欲しい。

たかはしともこさん

今回、良いピアニストを得て彼女の声も益々伸びてきた。
今回の発表会で声が一番伸びたのが彼女だろう。
どの曲も声に勢いと力がある。

また、その声はとても瑞々しいし、活き活きとしている。
これからの課題はPやPPをどうするか?と、高音を更に伸ばしたい。

シューベルト「至福」は、3節の変化をもっと付けられれば、更に良い。後は歌詞の意味をどこまでも大切に。
モーツアルト「暗い森の中で」は、出だしのブレスを伴奏者に見せないと、出られないから注意!
節が変わってからのAllegroは早過ぎないように。
声の勢いはとてもよい。

Aussitot deployantのリズム、特にDeployantの付点のリズムをはっきりと。
アリアは、声の勢いが素晴らしい。力みすぎないで音程が上ずらなくなってきた。
最後のLa chiede il tuo corのde-Ilの伸ばしは自由にやって良いから中途半端にならないよう。

地道に続けてきた成果が結実しつつあることが喜ばしい。
本番がきっと一番良い出来になるだろう。成功を祈る!