発声は母音イで始めて低音からの上向形の後、アに変えてみたが、なかなか良い低音がアの母音でも出せるようになりつつある。
まだ不安定だが、お腹が落ち着いて響きも良いところに当りが出てきている。
この調子を今後も続けて欲しいところ。
後は徹底して声を真っ直ぐに使う癖をつけて欲しいこと。
喉一点に集中して良いから、揺らさないこと、あるいは声が揺れることに敏感になって欲しい。

グノーのVeniseから。
彼女の声はこの音楽に良く合っていて、伴奏の和音に乗って良い感じである。
惜しむらくは発音が不明瞭であること。
Fが苦手で、唇が使い辛いのが残念。

後はSの子音とか、yの半母音、すなわちSurなどの発音である。
また狭母音が音域の高さもあるが、ほとんど開母音に聞こえてしまうのも、不明瞭になる原因である。
狭母音と開母音のはっきりした差が出ることも大切である。
中高音域の2点F前後はそれほど口を開けない発声で対処できるので、やってみて欲しい。

モーツアルトの「イドメネオ」のアリア。
前回より進歩があった。16分音符のメリスマのリズムが非常に良くなった。
後は、5線から上に出る音符の声質には注意を。
えいや!とならずに、柔らかく丁寧に、を基本にしてほしい。

トゥーランドット「氷のような姫君の心」
譜面に書いてあるテンポ四分音符=69はやや軽いかな。
多分Mossoとしてあるので、最大でもこれ以上早くするな、と解釈したい。
しかしながら、なかなか「らしい歌」になってきた。
最後の高音は良く喉を開けて、しっかりした高音を聞きたいところ。

全体的に中低音の声が分かるようになってきたこと、高音の響きも声量が出て声質も良くなった。
レパートリーの選択が広くなってきたと思う。
後は、声の揺れには充分に気をつけて欲しい。
表現力、あるいは表現の幅として大きな要素になると思う。

よこかわさん

発声は声を温める程度に、軽く2点bくらいまでやってから、ドミソのパターンで3点Eまで。
なかなか良い高音を出す彼女である。
恐らくコロラチューラのレパートリーも開発出来る声ではないかな。
彼女の本質は2点Aから上の声にあるのではないか。
その面から思ったのは、今の彼女の歌の特徴である、2点F前後の声がやや重いのではないか?ということ。

声のチェンジのせいもあるのだが、2点Aを過ぎると頭声の成分がはっきりして、すっきりするのだが2点G前後は下の声区を持ち上げて出す傾向が強く、そのために、重いあるいはやや♭な響きになりがちである。

それはある種のアリアの重い表現には良い場合もないではない。
ただ、今日歌ってもらった、ドナウディの歌曲などのような、清純でナイーブな曲にはややそぐわない感もある。
また、重く出すと声の揺れも目立つのである。
どうやら良く歌える彼女の声の課題はこの辺の声の処理にありそうである。

逆に3点C前後の声は、ほとんど言うことがない。
このまま地道に歌い続けていれば、本当に素晴らしい高音を歌えるソプラノとして育つだろう。

ドナウディの歌曲Date abbianto al mio doloreを持ってきた。
美しい曲を選んできたものである。
この曲は真っ直ぐな声で、レガートに歌うフレーズの美しさが重要。
彼女は声を張ると、ややビブラートが付くのが惜しい。
喉を下げる力がやや強くなるようである。
そのため、音程も微妙に♭になる。言い方を変えればこもるというのだろうか。
その点を直すと、この曲は爽やかでペーソスのある良い音楽になると思う。

最後に「椿姫」からAh fors’e lui che l’anima
前回も歌ってもらったが、彼女の声の特質からしても必要以上に声を重く作る必要はないだろうし、それは弊害になるだろう。
と、考えを改めたものである。
前述のように前半の最後のカデンツの最高音は非常に美しい声が聴かれる。
2箇所ほどカットした短縮版で3回ほど通したが、最後の最高音3点Eだったか?は、さすがに3回目はやや喉っぽくなったが
これも彼女の経歴からすると驚くほど良く対処できた声である、と言いたい。
今の段階では、これ以上掘り下げてやる必要も感じないが、強いて言えばメリスマの下降形は、声の支えが急になくなる傾向がある。
この辺をこれからも課題にして行きたいところである。

ごとうさん

発声はイで低音Gくらいから始めて、1点Cくらいまでの胸声区を中心にした。
ある程度喉が温まってきた頃を見計らって、ハミングの練習を。

胸声の練習の弊害、それは喉を硬く当ててしまう傾向が出てきたので、
ハミングの練習に切り替えた。
母音による練習は、喉をかえって硬くしてしまう傾向がどうしてもあるからである。

大事なことは、喉頭をリラックスさせて、響きを胸に楽に当てることからである。
喉を力ませる必要はない。
一所懸命喉を下げようとするのではなく、それは喉でやるのでなく、ブレスの深さと
当てる場所の意識、そして大切な姿勢だけで良いのである。

ハミングから母音に切り替える際のNgaの練習は、どうも鼻に声が行ってしまうのを矯正した。
鼻に行くのではなく、もっと後ろの軟口蓋だけを開いて上下に響かせるだけで良い。
必要以上に前に持って行くと、鼻声になるので注意!

曲はシューベルト「菩提樹」低声用。
何度か通してみて、特に声の入りでポイントがどうも高くなってしまう。
お腹から声を出だす意識を大切にすること、そして音域の高低や母音の違いで喉の開きがなるべく変わらないように歌うこと。

それにしても、この声域は彼の喉には低いのではないか?ということで一段キーを上げて中声用で。
これで、全体に響きが明るくなりすっきりした。
低声用は、バス向きだろう、と思う。

後はカンツォーネのAddio Napole
こちらは、当初に比べるとはるかに声がしっかりして、朗々としてきた。
それにしてもこちらも声域がどうも低い感じが否めない。
これは後々思ったのだが、胸声のやりすぎで、響きが♭になってきていることもあるだろう。
こもるのである。

今後は、もう少し響きを明るく出す方法も加味して行きたいと思った。
これはハミングから母音にする際のやり方が有効だろうと思う。

最後に、イタリア古典中声用からヘンデルのOmbra mai fuのアリアだけを練習。
ブレスから声を出すという声の出し始めの感覚を大切に。
音程に左右されずに、喉の深い場所、お腹から声が出ることを常に忘れないようにお願いしたい。

あめくさん

発声はいつものように中低音から始めてみるが、これもいつもどおりどうもスカスカするが、以前よりは通る声になってはいる。
こうなってくると、この声も良いのかな~と、諦めではなくて、そういう彼女の声への嗜好性というように解釈しても良いか、と思った。
本人にそれを確かめると、納得していないようなので、もう一度発声をやり直してみる。

別に難しいことではなくて、単にもっと声を出そうと思えば良いのである。
どうして出さないのか?どうもそのまま高音に行くと喉を締めるのが怖いようである。
だからこそ、声のチェンジの技術がある。
2点C前くらいから喉で押さないで、軟口蓋を上げて、息を通していくようにすること。
響き、声そのものでやる感覚ではない。
ア~と出しながら息を混ぜていくことを覚えると、更にチェンジが上手くなるだろう。
次回からこの辺を勉強しよう。

曲はフォーレのイスパーンのバラから。
この曲を最初に通した時に、発声で感じことを一回やってみることにした。
すなわち、中低音の声の彼女の自然な?発声をすべての音域でなるべく統一すること。
彼女の場合、中低音の自然さを中心とすると、2点Cから上の声がどうも違って聞こえる。というのは、そこまでの弦楽器的な響きに対して管楽器的な響きに変わるような違和感があるからだ。

で、それなりに上手く出来た。これは相当繊細な音楽だけど、それに耐える耳であれば評価できる音楽になる、とは思った。
結局、前述の発声の方法で声を出して行く方向に決めた。
この点があるので、この曲ももう少し勉強を続けたい。
私自身、この曲の良さが良く分かっていない。
分かるようで、良く分からない、フォーレの音楽の典型である。
分かりやすいメロディなのだけど、それがゆえに良く分からない音楽である。

月の光
ということで、こちらもやり直した発声で歌ってもらう。
出だしのVotreの母音のオは暗くこもるので、注意。アに近い感じを持つこと。
中間部のAu calme clair de luneの3拍子がもう一つしっくり来ていないらしいことと、CalmeのCaの響きがこもる。
この2点Desだったか?くらいの声は喉を下げ過ぎる傾向がある。
開こうとすると、そうなるのだが、軟口蓋を上に上げる方向や、声の方向をもっと前に意識しよう。
最後のParmi les marbreのテンポはリタルダンドは一切必要は無い。
Marbreの1点Fはきちんと低音の響きに戻るように。

最後に、アンドレ・メッサジェのオペラコミックBasocheからL’eveilleの歌うクープレDans ce grand Parisを譜読みした。
メッサジェらしい小粋で、美しい小品。
元々テノールの歌だが、綺麗でフランスならではの小粋な音楽なので、やってみることにした。
彼女も趣味が合うらしいので、他にもこのようなメッサジェの小品を取り上げてみようと思う。