TFさん

今日も40分以上、発声練習で声のディテールを探ることになった。
頬を上げて一所懸命、軟口蓋を上げようとするのだが、バランスに偏りが強くなって、肝心の声そのものがきちんとしていない状況に陥っているように思えた。

それで、もう一度下顎もしっかり下げた口の開き方でハミング。
声の芯を付けながら、音程もはめていくように練習をした。

1点F~2点Cくらいまで。これがなかなか難しかったが、結果的には、下顎を良く下げて当て所を喉下の鎖骨のくぼみという具合。
そうすると、どうやらきちんと声帯の当たったポイントになるようである。
下顎をしっかり下げるのは、喉も開かせるためである。
勿論、軟口蓋も上げるが、これはハミングから母音に変換する際に練習する、というわけである。

この練習を散々やって、後は応用で他の母音で発声練習をした。

上ばかり上げることをやっても、ギターの弦と同じで、弦がきちんと張られていない状態で、爪弾き方を練習しても意味がないのと同じで、声もきちんと当てる意識、当て方を持たなければ、きちんとした響きにならない。
ここはコマをしっかり締めるというイメージで、声帯をきちんと伸ばすということも同時に練習の要がある。

イタリア古典2巻のDormi bellaは、最初この発声が上手く反映出来なかった。
声の当て所を確立してしっかり当てることと、上に引っ張り上げること。
声の出のきっかけは、子音でもある。子音のきっかけで、喉も開くし軟口蓋も上がる。
勿論その前の準備もあるが、子音は良い発声の重要な要素であろう。

日本歌曲に入ると、大分声は練れてきて、今日の課題がこなれていた。
最高音域は、嫌でも声を張るので、今日の課題はあまり問題にならない。
むしろ、レガートに歌われるPの表現に、今日の課題が出てくるだろう。
最初からメッザヴォーチェを狙わないで、良い音程できちっと張った声が出せることを目指してから、響きを柔らかくする方向を探す方が良いと思う。
中低音の響きも今日の発声の方法で、きちんとしっかりと当てた声を探して欲しい。

MEさん

今日は彼女の友人である、ピアニストさんを連れてきての練習となった。
時間も惜しいので発声はやらずに、いきなり歌を始めてもらった。
今度の発表会のプログラムである。

1曲目は、フォーレの「5月」
発声をやらなかったせいもあるが、声が軽く、喉から上だけの声になってしまった。
息をしっかりお腹から意識して出す発声を忘れないように。
喉が温まらないうちは、あまり声の響きを当てようとしないで、良く開いた喉で歌えば良いだろう。

ピアニストさんも、軽い響きではなく、きちんとした響きを常に心がけて欲しい。
アルペジョの伴奏は、他の曲もそうだが、左手から始まるベースの音の響かせ方が、和音感、ひいては声楽家の音感にまで
影響を与えるので、しっかり響かせて綺麗な和音を出して欲しい。

フランスというと、なにやら軽くちゃらちゃら弾くようなイメージがあったら、これは誤解であろう。
歌曲だから、フォーレだから、フランスだから、とイメージだけを先行させないで、常に大きな音楽を目指して欲しいものである。
歌曲の伴奏でもオーケストラをイメージしても良いくらいである。
大きな音楽と言っても、間違って欲しくないのは、決してでかい音でじゃかじゃか弾いて欲しい、という意味ではないこと。
良い音、良い響き、そこから得られる気持ちよさのエッセンスとは何か?フレーズの大きさ、ということである。

この曲で歌手さんに言ったことは、途中出てくるRitの表現。
A l’horizon immenceと、De toute la natureというところ。
何となく書いてあるからする、のではなく、そうしなければいけない意味が、ここに音楽として書かれているから、
そのことを良く汲み取って欲しい。
平たく言えば、そうしています、ということを聞いている人がはっきりわかるようにしよう、ということ。

次に歌ってもらったEn sour dine
全体に歌はとても良く歌えている。
気をつけて欲しいのは、ここでも深い響き、あるいは深い心、感動を声に、ということである。
ややもすれば、高いキーで歌われるので、何か頭から出そう出そうとなってしまって、妙にかん高い声になるが、それは違うと思う。
歌詞の意味、雰囲気を良く捉えれば常に深さ、というものが大切であると思う。

ピアノも、Pだからといって安易にソフトペダルを使わないで欲しい。
必要があってのソフトペダルという感覚を音楽の中から汲み取って欲しい。
特に、Fermes tes yeuxに入るところは必要だろう。
ただ、前奏は必要ない、と私は思う。綺麗な和音、和音感を出すためには、前奏からソフトを使うとこもった聞きづらい消極的な音楽しか聞こえてこない気がする。

最後にC’est l’extaseを練習。
これは、今日が初めてだったので。
基本的には彼女の声には実に丁度良く、素晴らしい演奏になりそうで、楽しみである。
出だしから良い声が出せているが、欲を言えばもう少し響きを柔らかく、である。
深さは変えないで、響きに息が良く混じった綺麗なメッザヴォーチェを。
そして、下に下りるL’extaseを丁寧に歌うことで、レガートに綺麗になる。
この冒頭で決まるので大切に歌って欲しい。

後は、ダイナミックの変化を大きく取って欲しい。
最初の節の最後のLe coeur des petites voixは、声を落としすぎずに、単語、シラブルを大切にていねいに言うことである。

最後の節の、La mienne,dis et la tienneは意味を大切に歌って欲しい。
Dont s’exhale l’humble ancienneの最高音は、s’exhaleの最後のEを良く開いてそのまま響きを広げるようにL’humbleの最高音の響きに達して欲しい。広げていくイメージである。

Par ce は、音符をテヌート気味に。最後のTout basの低音は、スカスカにならないように。

ピアノは前奏に出てくる単音の打鍵はテヌートでよく響かせて欲しい。遠くで鳴る鐘の音である。
私は下で響くシンコペーションの和音はざわざわした風の微風、にイメージされるのだが。。
表層的なリズムが先走って、響きがないがしろにならないように。
音には全部意味があるから、その意味、イメージを大切に弾いて欲しい。
この最初の2小節で、この音楽全体に背景、雰囲気が決まってしまうからである。