FAさん

今日は調子がとても良かった。
発声練習から、声の響きが良く感じられた。
最初は2点Dから下降形で上り下りして、1点Cから今度は5度スケールとアルペジョ。
いずれも、懸案の2点C~Eにかけての、チェンジの問題をクリアして、綺麗に開いた響きに移行出来るようになっていた。

本人も意識して喉を開くようにしている、と言っていたので、分かってきたのだろう。以前は、本人もほとんど自覚の無いまま、喉を力んだ出し方になっていたので、この進歩は大きい。

恐らく舌が関係あるだろう、と思ったので、JaJaと半母音で練習してみた。
案の定、このスタイルだとやや締り気味の傾向が出てくる。
舌の脱力は難しいが、意識してみる価値はありそうである。

それから、顎で発音しない発声のスタイルも身に付くと、更に舌も脱力するし、喉も開いたままで発音、発声が出来るようになる。
喉奥や軟口蓋にかけて、空間を保持したまま発声、発音する感覚である。

後は、低音が多いので地声領域を練習してみた。
声区を一段下の領域に変えるのだが、喉で合わせる傾向が強くなるので、負担になりそうである。
声区が地声領域になっても、やはり声帯を合わせようとしないで息を良く混ぜて出せば、問題なく発声出来るようになるだろう。
後は慣れである。

これらのことを15分ほど練習して、曲に入った。
アーンのChansons grisesの L’allee est sans fin から。

まず第一印象は、歌詞の意味が歌に反映された印象。
その原因は、勿論良く内容を吟味したことにもよるが、音域的なことも寄与しているだろう。
中低音の響きが出しやすくなったことと、本質的に中低音の響きは言葉の内容を良く伝えやすいことにある、と思う。

惜しむらくは、一番最初の旋律の入りが細すぎて、フレーズの線がはっきりしないこと。
歌いだし、というのはとても大切である。その曲全体の印象を決めるので、楽譜のダイナミック指示よりも、強めに考えた方が
ほとんど上手く行くと思う。

L’alleeのアの母音を、息をしっかりぽ~んと当てるようにして、入るとその後も線の響きが繋がるだろう。
実は、このことは発声練習の時から言いたかったけど、もうずっと以前からの彼女の癖である。
良く言えば、非常に丁寧なのだが、やや丁寧すぎる印象である。
彼女の声のアタックは、あたかも針の穴に糸を通すような印象だが、これは、もっと太くした方が、絶対に良いと思うのだが。。。

ただ、誤解しないで欲しいのは、声帯を合わせるのではなく、良く開いた喉をしっかりと呼気を上に通す、という感じである。
喉で合わせて強い声をびりっと出す、というのとは全然違う。

言葉の理解と、その結果の歌の持つ力を感じさせてくれたのは、特に次のEn sourdineであった。
フォーレやドビュッシーのそれとは、まるで違うアーン独自の世界である。
詩の意味を訴えようとする言葉の力が歌に反映されていて、そのことが積極的な歌になって真に迫るものがあるのが驚きであった。

特に、最後のページのEt quand solennel le soir から最後のNotre desespoirなどは、彼女がそのことを真に感じて歌っているように感じられた。経験があるのかないのか、分からないが!?
何か真に迫る歌であり、驚くほど訴えかけるものがあった。

これも彼女の勉強の賜物であるし、またアーンの持つ力が彼女と上手くシンクロしたのであろう。
かなりな低音も上手く処理しているし、ぽ~んと上に上がる声の響きは、綺麗にチェンジして滑らかに出せていて好感が持てる。

最後のL’heure exquiseも、かなりな低域だが、ぎりぎり保って歌えるようになった。
ただ、1点Cから下は、声の処理に要注意である。
まだ、地声のチェンジが慣れていないため、喉に負担のある発声になり勝ちだし、実際響きも割れてしまう。
長く出す音はほとんどないので、絶対に押さないように、響きを軽くカスルように、舐めるように扱うべきだろう。
その分、その上の領域は、良く喉を開けて、良く響かせて欲しい。

この3曲全体に関して、レッスンでも何度も取り上げたし、歌唱についてはほとんど言うべきことはない。
強いて言えば、低音ほど舌が硬くなり、一所懸命発音しようとすればするほど、もつれそうになること。
その点は、力まないで母音の響きを大切にすることと、大切な言葉の子音をきちっと発音することだと思う。

最後のL’heure exquiseは声の調子によっては、キーを高いキーにしても良いだろう、ということを話し合ってレッスンを終わった。

追記:L’heure exquiseは、低声キーの場合は、もう少しテンポを軽く早めても良いだろう。その方が低音に無理が出ないのではないか?
逆に高いキーの場合は、重めにして丁度よいかもしれない。