IAさん

今日も前回と同じく、ドビュッシーの歌曲。
新しいのはRomance
これはDeux romancesではない、ただのRomance
これは、以前KKさんが、一度持ってきて歌ってもらったことがあったのを思い出した。
それにしても、この曲を歌うIさん。
切れ味の鋭いナイフのような歌を聞かせてくれる。

彼女の細くクリアな高音域の声とぴったりである。
強いて言えば、Mfなどのもう少し熱い響きが欲しいところが弱い印象。
デリケートな喉なので無理は禁物だが、少しずつ響きを前に当てて、芯の強い声も手に入れて欲しい。
それは、他の4曲すべて同じことが言える。

次のApparitionもそういう部分はあるが、だからといってそういう声でなければならない、という感じもしない。
響きも綺麗だし音程が何より良い。
特に中低音のピッチの良さは特筆ものである。
これが、ドビュッシーみたいな歌曲を良く聞かせてくれる最大の理由だろう。

短所は長所でもあり、高音域の声が暑苦しくなく涼やかでモダンな印象を与えるのに大きく貢献している。
そういう部分がドビュッシーらしいモダンさ(現代から見返せばむしろアンチクラシック的)ともいえる部分にふさわしいのかもしれない。
イタリア的な歌唱では、上に上るほど広がるような、噴水を見るような声の吹き上げに妙味があるが、そういう声をあまり必要としない点も、ある意味でアンチクラシック的といえばそうなのだろう。

ヴェルレーヌの「グリーン」は、時として高音が締まりそうな怖さが顔を覗かせるが、ぎりぎり保っているところもまた表現になりえるところが魅力である。

最後の低音のPuisque vous reposezは力まないで欲しいが、発声上の怖さがあるのなら、致し方ないが、むしろ気息的な声でよいくらいではないだろうか。意味上でも。

Nuit d’etoileも、同じ印象で良質な歌唱を聞かせてくれる。
星がピカピカと輝くクリアな夜空をイメージさせてくれる。

しかし、後々思ったのはやはりこれを選ぶよりはAimon nous et dormonsの暖かみ溢れる彼女の声が、曲間に混じるとアクセントになるな、ということ。音域が良いせいもあるが、作家はそういう声になることを十分承知の上でこのキー、そして音楽を書いているのである。

彼女の質問にもあったように、声の強弱をあまり意識せずに練習して欲しい。
また、ニュアンスということであれば、むしろ声質、と考えるべきだろう。
出しやすい音域ならば、彼女なら歌詞の理解があるはずだから、素直に歌えばそれだけで十分表現できるはずである。

声質に関して、強いて言うならば、やはり高音域の前に当たった響きだろう。
喉が上がらないようにするためには、顎をよく引いて喉頭を良く押さえ込んでおいて、口をあまり開け過ぎずに鼻根に持っていくようにしてみることも良いだろう。
あるいは、ある程度開けておいて、おでこにポーンとぶつけて見る感じも良いかもしれない。

口の開け方、当て具合などは、頃合を見て自分にあった方法を見つけて欲しい。
いずれにしても、少しずつやりすぎないで、毎日の練習が大切である。

UKさん

発声練習は、高音域を中心に始めてみた。
母音をイにして下降形で2点Dから昇っていくと、2点bまで綺麗に真っ直ぐでぴったりとした声で声を紡いで行く。
同度で、2点Cくらいから、イからアに変換する母音の練習をすると、今度はアの母音で綺麗に共鳴した響きが出せる。
これが、2点Aくらいまで続く。
次にドミソのパターンで、上がってみる。
すると、2点hくらいからやや音程が♭になって、3点Cくらいから、響きがややつぶれて来るが、響き自体はまだまだ上まで行けそうである。

3点Cからの更なる声のチェンジを会得すれば、恐らく軽いコロラチューラソプラノとして十分やって行ける声を持つ人だろう。

なぜそういうことを思うか?というと、逆に中低音が苦手なせいもある。
実は中低音は声量は出ないとしても、まだまだ開発は可能である、と思うのだが、いっそのこと超高音域の開発もバランスに役立つか、という気もした。

だが、きっと彼女は中低音の響きをもっとうまく出したい、と考えているのだろう。
であるならば、相当な意識改革、習慣の変革を持たないと、容易には響きが出てこないだろう。
まず、音域によって声の響き方は違う、ということを意識して欲しい。

彼女の場合、2点C以上の共鳴の出る響き方のポイントのまま、それ以下の声域を出そうとするために、スカスカとして響きが抜けてしまう。
響きの感覚を掴むためには、狭母音による練習が必須である。
特にイやエなどである。
オとかアは彼女の場合は不適切だと思う。
それから、頭部に響きを持って行かないで、歯の前とか、鼻に向けて持っていくこと。

そういう練習で、中低音の当たった感覚を先ず掴んでから、歌詞で歌う際に応用して欲しい。
特に歌詞の場合も、下あごでバクバクと発音しないで、なるべく上顎や唇を使った発音を心がけることである。
練習方法としては、指や鉛筆などをくわえて歌ってみること。
必ず練習して積み上げて欲しい。

特に、今日練習したもので、I puritaniのSon vergin vezzosaは、明るくハキハキした当たった声の響きが必須である。
声量とか深さ、というよりも明るさ、歯切れ良さであると思う。
中低音のモチーフも当然のことながら、中低音から高音にかけての、半音階のメリスマは、今の発声のままだと、息が回るだけで音程がほとんどわからない状態になってしまっている。

特に下降形の場合、声の変わり目に入る2点Cの前から準備して口を閉じて行くようにすることと、息を上に集めるためにお腹を入れて行くように。響きを集めよう集めようと思って下がらなければいけない。

さて、もう1曲のAdriana lecouvreurからIo sono l’umine ancellaは、彼女には重いアリアかな?と思いきや、高音域はヒューヒューと良く響いて、好印象であった。
確かに中低音は出にくいが、コンサートアリアのプログラムとしては、音楽的なテンポの緩急をしっかり付けて、変化を持たせれば十分良い演奏が出来るだろう。

もちろん中低音の課題は上述のように、同じ課題である。