TMさん
このところのレッスンで良い声が続出しているのが嬉しい今日のレッスンだった。
こちらに来出した頃は、良い声の素質が見えていたのだが、本人の感覚や色々な要素があって、なかなか定まらずちょっと苦労したのだが、2月の発表会からその後、劇的にと言っても良いほど、良くなってきた。
彼女も良い低音の素質があって、そこから自然に派生する中低音~中音域を充実させることに焦点を絞ったことが成功の原因、と思っている。
響きを高くしすぎない、集めようとしないことで、逆に喉のリラックスを得ることが出来、そのことで、喉が不必要に上がらない、即ち締まらない喉になってきたことが最大の良い結果である。
そうやって出てくる中低音~中音域の声は、いわゆる軽すぎる日本的なソプラノの声ではない、ふくよかな中低音を持つ大人な女性の美しい声である。
ヴェルディのSei romanzeからNon t’accostare all’urnaは、当に的を得た選曲だと思った。
彼女の今日の声なら女性が歌うほうがこの曲は良い、と思うくらいだった。
厚みのある中低音と、品格のある歌唱スタイル。
なかなか良いセンスを持っていたのである。彼女の声は。
トスティのtormentoも同様であるが、こちらはやや情熱が足りないか。
もう少しテンポを意識して、少しだけたたみ掛けて行く情熱を足して欲しい。
最後にオテロのアリア「柳の歌」に続く「アヴェ・マリア」を練習。
レシタティーヴォの祈り、低音の声の扱いなどに、イメージが沸かないようだったので、古いLPレコードのレナータ・テヴァルディの録音を聴いてもらった。というか、これしかないのだが。。
ほとんどがメッザヴォーチェであるが、レシタティーヴォの祈りの低音も、軽く押さない声である。
2点C~E辺りを歌うテーマは、実に美しい共鳴だけを響かせるメッザヴォーチェであり、改めて超一流の声を聴く意味あり、と感嘆した。
何度聞いても素晴らしい声は素晴らしいものである。
こけおどしではない、真実の歌声である。
それは中間部で一瞬出てくる強声の声に至るダイナミックの広さにも現れている。
まさしくMessa di voce 暫強暫弱のテクニックが集約されている。
ブレスの長さは無理があるとしても、今の彼女なら物に出来そうである。
難しいが、今のうちにぜひトライして欲しい。
FAさん
今日のレッスンを気持ちよく締めくくらせてくれたのも、彼女がレッスンで、非常に良い発声のポイントを掴んでくれた事に原因がある。
今までも何度かやってきたが、今日はこちらにも確信があった。
ブレスを明快に意識すること。
胸で吸わないことである。
あくびの喉で、お腹を少し開くようにしてブレス。
これは今までも何度かやってきたが、そのことが明快に声になって反映されるようになった。
恐らく今日が初めて、というくらい良かった。
それは実際に、歌詞を伴う歌になっても見事に反映されていたからである。
ただ、まだ歌の中の瞬時の短いブレスでは浅い傾向が残る。
このような素早いブレスはは、吸おうとせずにお腹を戻すように、緩めるだけで自然に息は入って来るのである。
ブレスは、声を出すことと、まったく表裏一体で、両者が噛み合っていなければ、良い発声に至らない。
喉が開いている(深い)こと、はイコール自然にブレスが入ることだし、またブレスが入るためのお腹の準備もそのことで出来ている、という見方も出来る。
さて、発声練習はそのことの前にだったけど、これも母音にHを使って、声帯が締まらないように意識してもらった。
これも、成功。
曲はアーンのChansons grisesからL’alle est sans fin
この曲はやり始めでは、発声を意識しなかったのだが、何度もやっているように、出だしの響きがいまいち、だったので、今日の発声のことにいたる最大の原因となった。
ブレスから発声に至る今日のやり方に成功すると、ブレスが伸びるし、歌詞の発音まで明快になってくる。
と言う調子で後の2曲もずるずると、非常に良い声が聞かれるようになった。
En sourdineの前半、低音をうねうねと動く箇所も、上手い所で喉が締まらず、具合の良いところで低音の響きが出せている。
Et quand solennel le soirが、これはいつもだが、妙に良い言葉の意味合いが出てくるのが不思議である。
最後のL’heure exquiseでは、低音から中音域にかけて、時折見せる美しい艶のある声が魅力的な輝きを放ちつつある。
良い中低音の響きが決まると、成熟した女性だけが持つ独特の色気が出てくるのである。
伴奏を弾きながら思わず、いい!と声を出したくらいである。笑
ただ、L’heure exquiseの最後の低音のフレーズ、Un vaste et tendre apaisement semble du firmament…の場所。
入りで気をつけて欲しい。
低音は、入りで気をつけないと喉を締めて出してしまう。
慣らそうと意識すると、締まるのである。
下顎を力ませないでだら~んと降ろすように、喉を開けて、息で声をアタックするように。
この曲、この場所に限らずだが、なるべくリラックスして、ブレスを入れよう入れよう、としないで、お腹を使うこと。
その時喉が開いている事、そのために下あごをリラックスさせて降ろせること、などだろうか。
次回の伴奏あわせでも何とか再現性があることを祈りたい。