MT

今回は珍しく発声のディテールのことになった。
腹から声を出すこと、発音の深さ、など。
腹から声を出す、というのは大きな声を出す意味ではなくて、横隔膜と声との連関性の良い声、と思ってほしい。

それは、声を出す状態として喉が開いていて、そのために声帯がわずかな呼気に敏感に反応できる喉の状態になるような、ブレスと喉との関係が作られている、と思うのが、クラシックの声楽の発声である。
これは、喉そのものの使い方のディテールこそ違え、民謡も同じことである。

本当の意味でブレスが長く歌えるというのは、肺活量よりも、喉の状態が響きを瞬時に生み出せる良い状態になっているからである。
もちろん、プラス肺活量が長ければフレージングは長くなる理屈だが。
だから、肺活量の訓練をすることも無駄とは言わないが、その前に、喉の状態を作るべきである。
で、俗に言うあくびの状態が、それを作るための一つの方法である、ということ。

彼の場合、声のポイントが前過ぎること、発音じに口先を大きく開けすぎること、それらは歌詞の発音とも関係がある。
例えて言うなら、テニヲハが良すぎるために子音発声で、喉の響きの状態が壊れてしまうこと、などであろう。

特にイの母音は締めすぎである。
感覚的に無意識に声帯を鳴らそう、振動させよう、という意識が働いてしまうのだろう。
もっと広い母音であり、もっと呼気が一緒に出てぼやーんとした響きの感覚くらいで、実はちょうど良いのである。
あるいは、声帯そのものの振動や響きではなく、もっと上の部分での共鳴を作ること、そのための口の使い方、口の開き方と思ったほうが良い。

良くやるように、指をくわえたり、鉛筆やキャップを口にくわえて、歌詞で歌ってみる練習も効果的である。

今日はシューマンの「詩人の恋」を13番くらいまで、ざっと練習してみた。
譜読み、基本的なドイツ語の読みは良いのだが、例えば曖昧母音である語尾のenのeの読み方とか、Iの母音の響きなども
浅く前過ぎてしまう。アなどの母音もイタリア式にならずに、あいまいなくらい、もっと脱力した発音にした方が、
上記の喉の状態や共鳴を生み出す効果を探しやすいだろう。

FT

彼の場合は、発声が大分分かりつつあるけれど、まだ喉と呼気の関係が確立していなくて、あるいはそれを無視してエイヤ!式に高音を出してしまうために、喉の耐性が低い状態であること、がテノールとしては難しいところ。
かなりいい線には来ているが、まだまだ喉の状態は、何となく、、である。

ただ発声だけが大事なのではない、歌うモチヴェーションだからそれを大切にしつつ、どうしたら喉の耐性が出来るのか?
どうしたら力まずに、あるいは自分で出しているという感覚無しに、良く響く声を得られるのか?というイメージを持って欲しい。

何度も言うように、自分で勝手に声を出そうとする気持ちよさと、笛や楽器を操る面白さの違いをイメージしてみること。気持ちだけで出来てしまったとして、それはそれで良いのだが、それが、2~3回歌うと、或いは30分も歌えば高音が出せなくなってしまうのであれば、それはやはり発声を考えて欲しいところである。

何度も言うように出し過ぎと、声の出るポイントが低くて、喉をぐいっと押して出している点である。
それは、高音そのものよりも、むしろ昇る前の声の出し方で決まってしまうだろう。
エイヤ!式ではなく、常に声の状態を考える冷静さを大切にしてほしい。
感覚的に盛り上がっていくところほど、自分の喉や身体の状態に敏感になって、大切に扱うことである。

今日は、前回のCarmela.Lorita,そしてトスティのL’ultima canzoneを練習した。
最初の2曲は高音が結構出てくるので、それだけで自然になんとか歌えるが、トスティは意外と難しい。

これは、逆に高音よりもちょっと下の出し易いところが多いために、出しやすさにかまけて、がんがん、考えずに出していると、
高音の発声が上手く出来なくなる典型かもしれない。
そういう意味では、発声をきちんとさせる課題としては最適であろう。
高音にいつでも昇れるように、声を重くしすぎずに高い響きを大切に、かつ喉の上がらないポイントで歌えるように、丁寧に練習して欲しいものである。

SY

彼女の場合、ブレスから発声に至る、身体の良い意味での脱力、リラックスが確立されてきたのだと思う。
彼女自身が持っている良い声が、無理なく発揮出来るようになってきた。
そのため、声を温めていなくてもそれなりの声が出せるようになってきたのだ、と思う。

課題としては2点Cから上の比較的出し易い音域でも、喉を締めずに、もう少し開いた発声、深い発声が出来ると更に美しい高音になるだろう。
また、更に上に昇るためにもそれは必要である。
声を出そうとするよりも、喉を力ませずに息を強く増す感覚である。
そのことで、喉は落ちて楽なんだけども、共鳴による響きが、口よりも高いところで生まれるような感覚になると思う。

中低音が素晴らしく良くなったので、後は2点Fよりも上の高音域の声を伸ばせれば言う事がない。

今日もフォーレの「イブの唄」をあちらこちらと練習した。
発表会で歌った2番をざっと声慣らしに練習してから、順次3番、4番、6番、7番、8番と進んだ。
いずれも譜読みの再確認程度である。

こちらが、かなりいい加減な伴奏を弾いていても、それを聴かないで自分の音に集中出来る耳も大したものだが、
読譜力、あるいはフランス語の読みも、良く勉強して進歩したと思う。

少なくとも、現今の曲であれば、細かい声のことをどうこうよりも、ともかく伴奏を合わせて回数を稼げば、上達するレベルに達しているのがありがたい。
次回の発表会も3曲くらい絞って、良く練習すれば充分間に合うレベルである。

AC

彼女の場合コントラアルトということで、低い声区とその上の声区の融合を目指したけど、それがまずは第一段階として成功したといって良いだろう。
後は、どの音域でもそうだが、まずは低い声区で喉を力ませないで、母音を発声出来たい。
今でも上手く行っているけど、母音になると未だ上の開きが足りず、喉で

そのために、鼻腔への響きの意識がある。
それでハミングを下降形で練習してみた。
下あごを良く降ろしておいて、鼻腔へ響かせてピッチが低くならないポイントで発声する。
これが上手く行ったら、この響きから母音に変換する、という方法。

これがぴったり上手く行って、恐らく今までにないくらい上手い具合に鼻腔共鳴のある響きになったと思う。
気づいただろうか?
これがとろーりとした何とも素晴らしい美声であった。
これが低音で出来るなら、後はどの音域もそれを応用していく、身体感覚さえあれば良い。
高音は同じようには行かないが、要するに喉で力まずに、開いた感覚で楽に響きを出せれば、成功なのであるから。

今日はデュパルクのPhidyleを練習した。
残念ながら、譜読みのレベルで声のことまでは至らなかった。
彼女にしては意外なほど譜読みに苦労しているようである。
或いは忙しいのかもしれない。

まずはフランス語のシラブルと音符の関係を見直すこと。
歌わないで、フランス語の歌詞を音符のリズムで読む練習である。
後は、長い曲だからリズムの関係、早さの変化の違いを把握すること。
発音だけど、Eの鼻母音に注意!エ~ンと発音しないでア~ンである。

譜読み、言葉の読みが確実になったら声のことを練習したい。