NA

今日は伴奏者が来てくれたので、効率よくレッスンが出来た。
彼女の今日の声の様子は、前回までに指摘したことが概ね再現されていて、良かった。
ただ、そのせいもあってか、もっと良くなるなという欲の残るレッスンだった。

もっと良くなるし、実際簡単に良くなるのが中低音。
下あごの使い方は概ねあまり降ろしすぎないことで、上をもっと開いた高い明るい響きを実現出来るだろう。
これは、高音域も概ね同じ傾向である。

特に音程差のある高音に昇る際に、思い切って下あごを下げるために、良く言えば安定した高音が特徴だが、響きがこもった印象が残る。
やはりもう少し上の開いた声が欲しくなる。
これも、下あごの下げ方やその勢いよりも、息の勢いが勝るべきだだろう。
そして、下顎を下げることの意味は、むしろ上を上げること、天井を高くするための下支え、バランスを取る為と考えては如何だろうか?

曲はプーランクのAir chanteから。
1曲目は前述の低音の問題。全体に中低音域の多い曲なので、余計それを感じる。
最初の言葉J’allaisの母音アを発音する際に上が開いていれば、もう後はそこでフレーズを歌いきるだけである。
全体にその辺りの工夫を。
そして、出だしのタイミングとしては出だしのJ’aの8分音符をその発音に費やす時間があることで、ピアニストに余裕が出来るかもしれない。逆に言えば、最初のアウフタクトの8分音符の歌い方でピアノとのタイミングも出しやすくなるのではないかな?

2曲目は前奏のピアノの音色に可愛さを求めた。
MfというよりMpくらい。とてもチャーミングな音楽である。
あたかも女性カウボーイの姿。ウエスタンブーツに膝くらいのスカート。もちろん彼女はカウボーイハットをかぶっている。
この曲集ではプーランクは明らかにアメリカを意識していると思うがどうだろう?
このチャーミングさを、彼女の声は充分活かしてくれていると感じた。だからイメージが沸いた。
最後の高いbの響きは、母音あるいはHuなどでその柔らかいチャーミングな響きを壊さないで表現する練習をしてほしい。
その上で歌詞を付けて慎重に。Contempleの語頭のKの子音は2点bなのだから、子音で響きを壊さないように、喉に来ないように!

3曲目の冒頭の2点Fの響き、喉で押さないように。息の混ざった開いた響きを大切に!
後、1ページ目から中間部にかけては、レガートよりもシラブルを活かす歌い方で始まった方が、フランス語朗唱の本来持つ味わいが出て良い。
そして中間部、Voix des oiseauxのフレーズはまったく逆にモルトレガートに。
あまり声を押さえないで、むしろ哀しさ、虚しさを表現して欲しい。必然的に音程は♭気味になると思う。
後は最後のフォルテ目掛けてアグレッシヴに!

4曲目は、1曲目同様に中低音の響きを高く明るく。
後は最後の母音によるメリスマ。
練習はレガートに全部繋げて母音などでその響きを綺麗に柔らかく表現して欲しい。
特に最高音の2点Aの響きを綺麗に。
それが出来たら、Hが入ってリズム感が出るのが良いだろう。

次にColloque
最初の節を私が歌って、続いて彼女が歌う男女応唱のスタイルだが、彼女の音程感か、譜読みの浅さか分からないが、入りの音程、響きが不安定。この入りはとても大切だ。その声質とタイミングを大切に。
1点bだったか?のQue me compares tuのQueの母音の響きは、中をよく開けて高く綺麗に響かせて欲しい。
後は、楽譜どおり途中のAnimezを活かして、A tempoへの切り替えは瞬時に。
もしかして良く分からないで歌っているかもしれないが、丁寧に美しく声を扱うと、非常に美しい珠玉の声楽作品である。
1930年代のタマラ・ドゥ・レンビッカのポスターの絵の世界だ。成熟した男女の恋愛の世界、風景、である。

最後にプッチーニ、ボエームからミミのアリアを2曲。
彼女も恐らく軽く歌ったのだろうと思うが、全体的な構成がやや弱く、アリアというより歌曲的、といっては歌曲に悪いが、
ややこぶりな世界になった。

要するに大きな劇場で人に判らせるための「大げささ」を。
声の大小ではなくて、例えばテレビや映画の演技ではなくて、芝居小屋の演技、かな?
上手い言葉が見つからないけど。

Michiamano Mimiは構成はあまり気にならなかったが、中低音をやはり明るく高く。
そして言葉の扱いはやはりもっと大げさに。母音の響きを強調することで自然に大きな演技になるだろう。
あまりレガートレガートと考えるより、大事な母音を大きく綺麗に響かせることに主眼を置くことで、結果的に演劇的な歌唱になると思う。

Donde lietaも同じであるが、こちらは張り叫ぶ悲しみとそれをこらえた明朗さの2つの要素の対比が、フレーズの扱い、特にフレーズの歌い進む力の具合に明瞭に顕れると良い。
こちらも中低音の響き、上を良く開いて高い明るい声を基本にして欲しい。
冒頭に書いたように、この2曲の高音も、非常に安定しているが、欲を言えばもっと高く明るくなってほしい。