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今日もフォーレのLa fee au chansonから。
良い声が出ているが、やはり母音の陰影、広がり、明るさ、暗さ、といった歌詞の発音が関与する音楽的な立体感が欲しくなる。

単純に歌詞の朗読から、フランス語の響きの特徴を掴んで欲しい、ということで、朗読を練習した。
特にお願いしたいのはAの響き。天井が高く広いような感じの響きのイメージを。
ドイツ語や英語圏のAに比べると、ずっと明るく広い印象である。

母音の形をあいまいにした方が響きに同一性が出やすいし、そういう意味では、レガートに歌えると思うが、レガートなら何でも良いとも思わない。
レガートも過ぎると、綺麗だけど逆に没個性な印象があるし、詩人の苦労が消えてしまうではないか!

彼女に限らずだが、特にウの深さは大切にお願いしたい。響きのポイントが変わりやすいので難しいが、これが出来ると出来ないのでは、旋律の陰影に大きな差が出るであろう。

Clair de luneも同じ印象であり、練習しただけで見違えるほど美しい歌曲演奏になる。
元々クリアで硬質な声がこの曲には合っているのだが、母音の陰影が付くだけで、数倍、詩が本来持つ音楽的な美しさと、それに音楽をつけたフォーレの苦労が活きるのである。
Au calme clair de lune,triste et beauであれば、CalmeのA.ClaireのE,などの広さ、明るさと対比したLuneのyやBeauのoの深さ、暗さ加減である。

特にこの曲は、Aの母音が特徴的であり、ヴェルレーヌが語感に錬金術した効果が明快に出ているから、発声やレガートな歌唱に悪影響のない限り、これらの語感を歌にしっかりと込めていただきたいものである。

最後にアリアを。
モーツアルトのCome scoglioから。
レシタティーヴォは、感情の激しい語りなので、ここでもイタリア語の語感を。
音楽的に綺麗にイタリア語の語感にあわせているので、更にアクセントを強調しよう。もちろん滑らかにであるが。

低音はさすがに厳しかったが、特筆したいのは高音の響き。
2点bが驚くほど良い響きに生まれ変わっていた。
喉だけで押すのではない、共鳴がついた太いしっかりした響きで、これならリリコの資質は充分、と思わせるだけの立派な高音であった。

最後に、前回までさらっていた「後宮。。」からコンスタンツェのアリア。
こちらも、喉で押さない響きで持っていこうとする彼女の努力が良く現れていた。
特に前半の高音はレジェロに処理されていて、モーツアルトらしい、あるいはこの役柄とキャラクターに相応しい良い高音の処理であった。
前述のリリックな表現とは打って変わって、優しさや育ちの良さみたいなものが自然と出るのであるから、音楽は不思議である。
それは、彼女がいずれの曲でも丁寧に声を扱ったからであろう。

最後のページの高音続きは、さすがに厳しさを隠せないが、これとて訓練で、もっともっと響きで綺麗に持っていけるようになるはずである。
それは、上手く行った時のブレスの準備や、喉や腹の状態、感覚をどうやったら、常に維持できるか?そのためには、どこで抜くのか?そしてどこではしっかり出すのか?という全体的な声の配分や構成を考えることにもつながるだろう。

IA

久しぶりだったが、今日はドビュッシーの「噴水」を持ってきた。
出だしから、彼女らしい音楽のツボをを見事に掴んだ歌唱を披露してくれた。
この曲に関して言えば、彼女の美点は充分表現されていて、ほぼ言う事がない出来であった。
後は、ピアノ伴奏との兼ね合いであり、むしろ、ピアノの音楽作りのほうが困難を極めそうである。

正確なリズム感は、常に音楽の奥底に隠されていて、表面的には、まったくそれが見えずに、あたかも、自然界のリズムが表面は自由で、何者にも束縛されない風のそよぎや、そのそよぎに反応する葉っぱの動きや、もちろん噴水の吹き上がる水の勢いや、水面の波紋までが
自由だけど、背後にある秩序を保てる確かな音楽性の支えがあってこそ、歌は自由に歌えるのだろう。
そういうアンサンブルが出来れば、本当に素晴らしい「噴水」の演奏になる可能性を持っている。

デュパルクの「旅への誘い」の中声用キーでも、もまったく同様に、この曲らしさが見事に表現出来ていた。
試みに高いキーを、との希望でやってみたが、こちらはずっと明るく女性的な印象で、良く言えば線の細い、繊細な印象であるが、良い印象である。

最後にグノーのViens les gazons sont verts
こちらは、彼女らしい丁寧でレガートな歌唱であって、彼女の歌のスタイルが見事に出ているが、ややもすれば、それがこの曲では裏目に出る傾向がある。
問題とも思えないが、敢えて彼女が表現力の幅を持とうとするのであれば、すべてにレガートを考えるだけではなく、打つこと、その場所をしっかり決めることと、レガートに歌うフレーズを分けることを作ることでもあるだろう。

また、声も2点C~Eくらいで、ピッチの高さだけで声を出してしまうために、喉が高くて
細い響きになってしまうことが、音楽的な印象を弱くしてしまう点の改善ということも考えられるだろう。

このポイントは、恐らく高音にまで影響があるので、もう少し喉を開いた発声
あるいは、喉は開いているのだが、その開き加減をもっと太くすること、といえるだろう。

また、単純にあまりレガートにこだわらないで、もっとスタッカートに処理すことや、シラブルを明快に出すこと、など、音楽の表情は滑らかさだけではない点にも留意するだけで、表現の幅が変わるしそのことで、自然と発声にも良い効果が現れるはずである。