TK

発声練習は調子よく、いつものように下降形で始めてから、低音から上向5度、そして低音から中低音まで地声での練習。
高音はほとんどやらない。せいぜい2点Aくらいまでだろう。

彼女の場合、高音自体を伸ばすよりも、今のうちに中音から中高音の一番使う領域で
アーティキュレーションを充分に身に付けておくことだろう。

今は、バッハのカンタータのアリアをやっているわけで、当然ドイツ語だが、何となく発声しているに留まらないで、積極的に母音の発声に拘って欲しい。
もっと時間をかけて、一つ一つの母音をていねいに発声すること。
その上でそれらのつながった母音を滑らかに処理できること。
の2つがポイントである。

これは一朝一夕では行かないが、彼女くらい歌えるようになると、後はやることはこのくらいしかない。
発声そのものをいじるよりも、母音を歌う発声の方法、あるいは発音と発声の関係を深めることで、自然に基本の発声が更に良くなると考えている。

それにしてもバッハのBWV120のNo4のアリアHeil und segen。
驚くほどモダンで良く出来ている。美しい!
当たり前だろう!とバッハの権威は言うのだろうが、本当に目から鱗ものである。

TT

シュトラウスのブレンタノ歌集からAn die nacht とAls mir dein lied erklangそしてAmorを。
An die nachtは問題ないが、後の2曲は高音が少し厳しい印象。細く辛い。
だが、これは伴奏音楽との一体による集中で、すぐに乗り越えられるレベルなので後は合わせだけだろう。
細かいことより、伴奏と一緒に通してその集中力を養うことのみである。
最後に「からたちの花」を。
こちらは、声の扱いに進歩あり。特に最後のPPの高音は共鳴が出てきている。
長いフレーズを無理に一息で通すことよりも、落ち着いたテンポ感を大事にして欲しい。
一息で歌う余りに、歌い急ぐ傾向が、煩わしく感じてしまう。
ブレスの長さでフレーズを美しく歌うことは、歌手にとってとても大事だが、無理をする必要はないと思う。
それよりも、歌う情感はどこにあるのか?そのためのテンポはどうなのか?を大切にした方が良いだろう。
ゆったり歌わなければならないのはどこか?あるいは少し明るく先に進むところはどこか?
じっくり哀しく浸りたいところはどこか?
そういう設計図をはっきり作って実行して欲しい。

WH

前回、かなり喉を痛めていた印象があったが、調べたらアレルギー程度で、大丈夫だったようであり、一安心だった。
発声練習もまったく問題なく下のbから上の2点hまで良い声であった。

プッチーニのミミからDonde lietaを譜読み。
音は問題なく取れているのだが、この曲はリズムの変化が激しいので、そこが難しい。
何となく録音を真似していると、どうしてリズムに変化があるのか?という基本がすっ飛んでいるから、応用が効かないのである。

ここは、面倒でも一端In tempoで歌うとどうなるか?という基本的なところから、やり直して欲しい。そのことで、声もしっかりしてくるだろう。
その上で、Ritしたり、テヌートしたり、戻したりという変化を出していくように。

モーツアルトのDonna Annaは、みっちり練習した。
前半はレシタティーヴォから、リズムを基本どおりにすること。
アリアの前半は、特に出だしの有名なテーマの声。
声を頑張って出し過ぎることで、少し乱暴な印象がある。
もっと悲しみやせつなさを表現したい。

声のアタックを静かに、あるいは喉を良く開いて喉が上がらないよう。
そのために、母音をウにして練習をした。
後半のアレグロ楽節は、特にメリスマの下降形に注意。響きが落ちないように。

MM

今日も前回と変わらない調子だったが、声が温まらないと発声そのものが不安定に鳴ってしまうのは、まだポイントが完全につかめていない証拠である。

大事なのは、声の調子ではなく、歌詞を発音することと発声のコツがリンクしているかどうか?
と思って欲しい。
それは、特に母音の発音で、口の中を充分広げる意識である。
このことは、声の鳴りや響きに左右されるとしても、常に意識しなければいけないことである。

今回も前回と同じく、ニュー・シネマ・パラダイスのテーマから。
喉の温まりと同じく、調子が出ないで始まった。
そこで、歌詞を朗読してもらった。
こちらがやってから真似をしてもらう。
母音の響き、深さ、大きさを感じるよりも、もっともっと大きく大げさに。
結果的に歌う声も自然にそういうものになる。

シューベルトのAn die musikとプッチーニの「妖精」のアリアも同じテーマになった。
彼女のように、口腔内や顔面、あるいは顎などの諸器官の動きがあまり大きくないタイプは
理屈ぬきで良く動かすことで、喉や発声に関する活性化されると思う。
そういう発想で、活発なアーティキュレションを徹底して欲しい。