TK

今日は発声に30分近くかけた。
以前から地声の領域の練習をしていたのだが、彼女に限らず、中音域の声区の響きが問題になる人が多く、それもあって練習をしていた。

単純に、3つの声区を下から1点E中間が2点Cそして2点Fと分けると、1点F~2点Cの出し方を、
2点F以上の声の出し方のまま、下に持っていっているケースが多いということ。

いわゆる軽い声の出し方ともいえるが、このままだと特に2点Cから下の1点Fの間の声に
芯が付かない。

その点を何とか改善すべく練習している。

今日は少し強引に、1点E以下の地声といわれる出し方で、上まで持って行く練習をした。
といっても、大切なことは、母音の調音点を喉ではなく、鼻腔に持って行くこと。
あるいはもっと低俗な意味で鼻声でも良いから、母音を絶対に喉で作らないように。
すなわち、アと発声するために、下顎を使わないで軟口蓋から鼻にかけて通すように声を出せば自然に母音が発声される、という感じである。

日本語だと、無意識に下顎から喉で母音を調音しているが、その力みを徹底的に排除すること。
ドレミファソを母音で上がっていく時に、特に一番上の声が喉で押してしまう傾向になる。
その部分で、下顎を力ませたりしないで、鼻に持って行くのである。

そのようにして、下の声区を上まで持ち上げて行く練習をした。
鼻腔で母音を調音すると、喉を力まない感覚がわかるはずである。
これが、すなわち下顎を力ませない母音の発声ということに繋がると思う。
日本語の母音で歌うと、無意識で下顎に力を入れてしまうから、喉を力ませ閉めてしまうのである。

これが地声の出し方の延長でも出来るのであれば、自然にミックスした声区の出し方を覚えていくのではないか?と良い方向に考えている。
何事もやってみなければ、結果は見えてこないだろう。

曲は前回と同じく、バッハのカンタータ5番~7番の3曲を歌った。
5番はほぼ良いだろう。
6番は、譜読み的にはOK,後は特にウの母音や子音の扱いに細心の注意を向けて欲しい。
7番はもう少し譜読みを煮詰めたい。

SM

発声練習は、なかなか良い声が中高音で響いて、中低音も良く出ている。
ただ、高音は、上に昇るほど細くなり締まっていく。
それは下の声で、太くなってしまうせいもあるだろう。
上に昇るほど喉を開く、あるいは下げる、というように上に昇るほど声のエネルギーが解放されるような声の出し方を、研究して欲しい。

中低音は、逆に喉を掘らないで上顎に集めること。特に1点F以下は、ほとんど顔面か鼻に集めるだけで良い。
1点F~2点Cは、実は大分良い発声になっていて、喉も開いているし、共鳴もあるのだが、
まだ喉で深くしている感じ。
それは、多分出しやすいからであろう。
それはそれで良いのだが、その出し方が更に2点Fから上の出し方に影響を与えなければ良い、と考えてもらえれば良い。

出しやすい中音~中高音域は、喉の深さよりも、声帯が一定に保持されている状態が良い。
喉の場所自体は、もっと高い位置でも良いから、喉がブラブラにならないように
顎を良く引いて、高い場所で発声できると良いだろうと思う。

筋肉は余裕を持たせておかない、フレーズ最後で使えなくなるわけだから、上向形のフレーズでは、低音は力まずに、上に行くほど筋肉を使って、喉を開くとか、口を縦にするとか、あるいは唇を突き出す、とか、或は胸を開く、などのように、フレーズの最後に向って筋群を使えるようにするのである。

伴奏付きであったが、曲は、グノーのL’absentから。
Nuitの母音はIであるので、これを伸ばすこと。発音はかなり明瞭になった。
後はSiのスィである。シにならないようにくれぐれも気をつけて欲しい。
それから、歌詞として1フレーズのところは、休符が入らない限り、なるべく1ブレスで歌って欲しい。
逆に言えば、1ブレスでどうしても歌えないということは、テンポが重過ぎるということでもある。
ただ、テンポが早くても、この曲の内面的な思いや、静けさという背景は尊重した歌い方にしてほしい。

伴奏の弾き方は、内容を把握した上で、もう一度音楽全体を見渡せば、どう弾くか?どういうテンポか?
は自ずと判ると思う。
歌手が高音に昇ってディミニュエンドするようなところは、歌手の歌い方を尊重して欲しい。

Le soirは、全体に音域が低めなので、中低音の声の響きに注意。
高く前に、が基本である。喉を掘らないように。
出だしのアウフタクトは、常に気を付けて欲しい。

伴奏は単純な8分音符の連打だが、伴奏形そのものに意味、イメージがある。
船が波を蹴立てて進むように、進行性というものを考えて欲しい。
メロディに合わせて8分音符は微妙に進んで行く物ではないだろうか?
リズムを刻むために、8分音符になっているのではなく、メロディを修飾するために8分音符の連打になっているのである。

カルメンのミカエラのアリア。
レシタティーヴォは力まないで、声の響きに集中してほしい。
これも高く前に、である。響きが大切ということで、意味を考えても良いが、声の力みにならないように。

アリア部は、基本的に遅いと思う。指示より早めにしても、全体的な流れを優先して欲しい。

彼女の場合は、基本的に歌うことに気持ちを込めようという姿勢があるのは良いのだが、
そのために、発声が不安定になる面がある。
今考えて欲しいのは、気持ちよりも、不安定にならないための、発声への集中だと思う。
それは、例えば顔をぐらぐらさせないことである。
顔をしっかり使って、響きが常に一定の場所に当ることは、特に中低音において大事だろう。

WH

発声の中低音は非常に良い声で、深すぎもせず。綺麗に当る響きが出ていた。
高音の練習をすると、3点C以上で滑らかに出せる声区の出し方が出来ていて、
高音の素質も充分に感じられる声であった。

ただ、中高音域で、ややもすれば高い声区、頭声の響きが勝つために、前に響かない声になりがちの癖が相変わらずある。
それはちょっとしたことだが、下顎を前に出して声帯開けるるために、響きが前に出ないのである。

喉は楽な方が良いが、使わないといつまで経っても開発されないから、楽をしすぎないで、きちんと正しい方法で使うべき、と考えてやってほしい。
勿論無理は禁物だが、うまく使えば、喉に負担はないはずである。

2点A~bくらいまでは、そういう出し方で充分対処出来るはずである。
そして、2点hくらいを基準にして、彼女の得意な出し方を使えば、そのまま3点Eくらいまで一気に昇れるはずである。
このような発声の切り替えは、広い音域を使うソプラノには必須事項だから、覚えて欲しい。

例えば、今やっているプッチーニのMusettaのアリアなど、典型である。
ほとんどが、今日練習した発声で歌えるが、最高音の2点hの響きは、また切り替えが必要だが、彼女はそれを問題なく綺麗に出せている。
それは、相応しい出し方を彼女が会得して使っているからだが、逆に、その声のままでは中高音としては軽すぎるのである。
あるいは開きすぎる、とも言えようか。
出だしのQuandoの2点Eなどは、やはり声区の選択が大切で、少し前に出てくる響きが必要である。

ベッリーニのI puritaniからSon vergin vezzosa.
これは彼女にはなかなか難曲であるが、丁寧に時間をかければ、充分に歌い切ることの出来るレベルだと思う。
大事なことは歌っていて、練習していて、面白いと思うかどうか?であろう。

全体にこの曲も最高音域の声よりも、中音~中高音の発声、声の嗜好を大切にしたい。
まだ譜読み段階が終わらず、自信がないせいもあるが、全体に声が浅く軽過ぎると思う。
女性の歌としても、ぶりっ子の歌ではなく、大勢の聴衆に朗々と訴えている風情であるから
女性男性の性差のある歌い方よりも、男っぽい歌い方で丁度良いはずである。
そう考えれば、声のあり方として、理解できるだろう。
発声の問題として捉えるよりもわかり易いと思う。

半音階の難しい上昇フレーズのメリスマも、基本的なところは、上手く処理出来ているし、この曲に必要な最低限のテクニックはもう出来上がっているので、後はこの中高音の声質には充分注意して欲しい。

MM

段々発声が良くなってきたのが判る。
特に指示したことの理解と実行力がリンクしているようで、これからが楽しみである。
ここまで大分時間がかかっているが、わかれば後は早いだろう。

今日は喉がリラックスしていて、最初の発声から良い中低音だった。
スケール5度で上がっていくと、段々喉が締まってくるのが判るのだが、その領域での対処を教えた。

最初は口を開けるように発声していたのが、上に行くほど鼻腔に集める、入れるように、と指示したら、何も言わなくても口を開け過ぎない発声に変わっていた。

更に高音に上がる場合、それは2点Gくらいからだから、そこで初めて喉側を開くように意識しつつ、軟口蓋も上げて行くように、要は中を充分広げていくように発声して欲しい。

曲はグリークのIch liebe dichから。
ドイツ語の朗読を、徹頭徹尾、良い響きの声で練習することから始まった。
トーンを高くして語ること、そして、必ず鼻腔を響かせて語ることである。
これは、自然に喉が開いているはずである。
語りでこれが出来れば、歌うのは自然に良い発声になる、と思っている。
特に5線の中であれば、ほとんどそうだろう。

更に高い音域はチェンジそのものが自然だし、後は喉を締めないで開いた状態で発声できる発音を
心がければ良いと思う。

そのために、彼女の課題はLの子音がぎこちないこと。
舌先を充分に使うこと。
Kの子音は、もっと奥の軟口蓋側、天井側を意識して発音すれば自然に鼻腔に入る声になるだろう。

子音に注意が向けば嫌でも口の使い方に注意が向くはずである。

また自然に語感も育つはずである。
子音をきちんと発音することで、その言葉自体もきちんと扱うということに繋がるであろう。

シベリウスの歌曲は、全体に音域が高めで、流れのある曲なので、概ね好感が持てる歌になっている。
ディテールは、上記の歌曲と同じことで、更に煮詰めて欲しいところ。

プッチーニのアリアも同じことである。
こちらはかなり細かく練習したが、煎じ詰めれば一番難しい2点C近辺の声の処理だろう。
今日の発声の方法を応用して練習をした。