FT

前回、発声上での良い感触を得て帰ってもらったが、今日は引き続き、その感触を持って来てくれた。
発声練習を下降形で高めの1点Dから始めたが、喉が開いた良い声が出せていた。
高音も無理ないし、中低音も締まらない。

一言で言えば、声出しの前、ブレス時のあくび状態が少しずつ上手になってきた。
そのため、息の通った柔らかい良い声が出せるようになった。
これは単に良い声だけではなく、喉に無理の無い発声である。

トスティのMaliaから。
最初は、声全体が元気の無い声になっていた。
これは勘違いであろう。
喉を鳴らすことが、声を出すことなのではなく、息をしっかり通すように吐くことが、声を出すことだから
息がしっかり出て来ないこと、は間違いである。

レッスンでは練習しなかったが、音程を付けないで歌詞を歌う練習は有効だろう。
勿論、それは歌詞を歌う(発語する)際に、息を吐くことである。
Tristezzaも、発声のこつがつかめて大分良い歌である。

最後にリゴレットの「女心の歌」を。
以前だったら、喉が上がってしまったところを、上手く切り抜けられるようになっている。
確実に発声を覚えて来ている感触があって、良かった。
この調子で、発声を確実にして、高音を更に伸ばして行って欲しい。

TK

前回に引き続き、バッハのカンタータからNr36と41を練習。
特に1番は、音域のせいなのか、中低音と中高音の音程感の違いがあった。
問題は、2点Cを抜けてから2点Fくらいまでの間で、音程が上ずり気味になる現象である。

声の響きを無意識に集めることや、響くポイントの感じ方で、どうしても声区が変わると音程感が変わってしまうのだと思う。
どちからというと、2点Cから上の領域の響きの方が上ずって聞こえるから、その響きの重心をもう少し低く感じて出すと良いだろう。

そして一番大切なことは、上に音程を上げるフレーズで、何となく音程で歌うのではなく、きちんと息を膨らますように
高音に向けて、フレーズする意識である。
恐らく、これがないから、響きが痩せて、上ずって聞こえるのではないか、と思う。

後は、特に36番はリズムを丁寧に、きっちりビートを確立することである。
特に32分音符と16分音符の組み合わせは丁寧に。

バッハのような伴奏部がポリフォニーで作られていることが多いと、声の音程感が、よりシビアになってくる。
逆に言えば、伴奏のポリフォニーから自然に和音感を感じることが出来れば、自分の声の音程感をはっきりさせられるだろう。
私の下手な伴奏だと、その辺りがあいまいにならざるを得ないので、あまり心配することはないのだが。

後は歌い慣れることのみ、である。
譜読みは良く出来ているので、伴奏を合せて歌うことでのみ、声の感覚は養われて行くだろう。

WH

発声を見ていると、どうしてもブレスが浅く、喉の準備状態が足りないように感じられた。
良く言えば、自然で無理が無いとも言えるのだが。
また、身体の状態が固く緊張している傾向にあるのではないか、と思った。
歌っている姿勢を見ても感じたのだが、どうも下顎が硬いらしく、リラックスして降ろせないようだ。

この喉を少しあくびをした状態で、上手く行くと、発声の声が見違えて良くなるのが判る。
深みが増して、彼女の声の美点が充分活きて来る。
そのことに彼女自身が気づいてくれれば良いのだが。
自分が気持ちよく歌えて、それが自分で良い声だと思えることは大切なことだ。

ミカエラのアリアは、大分形になってきた。リズム感も付いてきた。
今日も母音だけで練習して、声の扱い方を区分毎に教えた。上顎だけで上の響きだけで歌うことだけでなく、下も開いて歌うこと。
それから、フレーズはどういう表現なのか?その時にどういう声を出すか?は、発声もあるが、アリアだから、基本的な表現のスタンスを確実に捉えていなければいけないだろう。こう書くと難しいが、どう聴いても強い声を要求するフレーズなら、単純にそういう声を出そうと思えば良いのに、発声のあまりに、まるで違うことをやってしまうのも、おかしいと思うことがあったからである。

椿姫のAddio del passato
ここでも良く開いた喉で歌うことに尽きるので、その点から歌い方を教えた。
最後に引っ張る高音は、くれぐれも乱暴に出さないように。
全体的には、ミカエラよりもこちらの方がシンプルなので、歌いやすいし声の扱いも楽だろうと思う。

ミカエラは、テンポの変化や声の劇的な緊張感の変化が大きいので、その点の切り替えと、それぞれの発声の基本をやり直して行きたい。

MM

前回、発声を中低音主体に戻してから、大分、音程感の良い声になって来たと思う。
モーツアルトの「夕べの想い」を歌ってもらって、その感を強くした。
音程というのは難しくて、♭に聞こえるからといって、単純に上げようとすると、余計音程感の悪い声になる可能性がある。
なぜなら、発声の問題だからである。

基音がはっきり出せれば、後は軟口蓋がきちっと上がっていることで、息の通りが高く上がれば、自然に音程感の良い声になる、はずだと思っている。
それを、音程が♭だから、といって軟口蓋ばかり気にすると、今度は喉が上がって、締まった響きになったり、上ずった響きになってしまうだろう。

注意点は、やはり太く当りやすい音域での、響かせ方と、ブレスの入れ具合である。
ブレスを深く入れ過ぎて、喉が下がりすぎて太く当ってしまうことである。

これらのことは、実は単に発声の問題、だけではなく、音楽の感じ方と、表現する意図が絡んでくるので、くれぐれも、発声だけで直せる、と思わないで頂きたい。
発声は、どうするとどうなる、という技術の問題であって、それらは、表現意図と結びついて初めて良いものが発揮されるであろう。

メンデルスゾーンのNachtliedは、深みのある声と、繊細な声の違いを良く使い分けられること。
サティのJe te veuxは、中間部の歌として、もう少し内容を伝える声が欲しい。
媚びではないが、歌詞の内容が内容だから、声にそれが反映されて欲しいところである。
発声の問題は、今のところとても良い方向である。