声楽の呼吸法に限定して言えば「呼吸とは歌うことと見付けたり」という短い語句でまとめられます。
具体的には・・・
1、吸うという行為の中に、歌うための腹筋や背筋の状態を作り出す準備が含まれていること。
2、吸った結果のフォームによって、歌は表現に応じた呼気を自由に産み出していること。
この2つに要約されます。
つまり歌うことそのものが、ふだんの生活における人間の自然な呼吸と同じ働きであるということが言えるでしょう。
しかし、普段の語りを考えて見れば判る通り、ラフな気持ちでしゃべると他人には言葉の意が通じないことが良くあります。
それは喋るテンポが速すぎたり、あるいは息継ぎが多くて声が小さかったり、様々な個性やその時の精神状態に影響されるわけです。
それは歌うことにおいても、まったく同じことです。
人に言葉を伝える職業といえば、まずはアナウンサーですね。ナレーターもあります。
芸事で言えば落語がその典型でしょう。
それら語りのプロたちが文学作品を読めば、それは「朗読」と言われたり「語り」と言われたりします。
私たちが思っている「声楽」は、歌の世界で言えば、この「語り」や「朗読」と似ています。
感情表現を伴った多くの人に通じる言葉の「語り」や「朗読」が歌になった時、それを声楽と言うのです。
芝居はこの「語り」が脚本にそって演じられるわけですから、オペラも同じであることが判るでしょう。
歌曲は、正に「語り」や「朗読」そのものなのです。
このように、語りや朗読に声楽の原点がある、という考え方に依拠すれば、声楽の呼吸が特別なものではなく自然なものであることが判ると思います。