前回は少し与太話になってしまいましたので、今回はシリアスに。
軟口蓋を上げるとか開く、という感覚や方法がとても難しく、私にとっては発声の一大テーマでした。
その前に。
私が発声で最初に覚えたことは「当てる」という方法でした。
私の場合は「頬骨に声を当てる」ということでした。
これが、初めて覚えた発声だったので妙にはまってしまって、音程が良くなったし響きが前に出るから、声が通る、と一見良いことずくめのように思えたのでした。
ところが、それがある日無残にも打ち砕かれてしまう日がやってくるのでありました!
ラヴェル作曲の「ドン・キホーテ」(お店ではない)という歌曲集があるのですが、この3曲目の高音を練習しすぎて、声帯にポリープを作ってしまったのでした。
当時、渋谷にありました名医を紹介されて、完治しましたが、それ以降この発声が怖く、どうも上手くいかない日々が続きました。
その後パリに留学し、カミーユ・モラーヌ先生に師事してから、また違う発声を教わりました。
そこでは、あくびをしろ、ということをよく言われたのでした。
それから、口の使い方を厳しく言われました。
下あごを真下に下ろすのではなく、むしろ耳側に向けて引くように開けることが、先生の極意だったのでした。
先生は、下あごを真下に下ろすと、真っ赤な顔をして怒ったものでした。
「そういう発声は、あの○×△■そのものだ!駄目だ!」と、言う具合。要するに当時フランス歌曲の歌手としてのライバルだった某氏の発声を言っているのでした。
この下あごの柔軟な使い方こそが、軟口蓋を上げる、開く発声として有効なものの一つなのだ、ということが判ったのは、それから何年も経ってからのことでした。