歌唱におけるフランス語発音を学ぶときに考えるべきことは、日常会話の発音ではなく歌唱発音である、という点です。
ステージで歌って、フランス語の発音の明快さや美しさが良く出せる歌唱であるということになります。
日常会話の発音と歌う発音には、微妙な違いがいくつもあります。
この違いを判って歌っている方もいれば、辞書の発音記号通りに歌う方もいます。
どちらが正しいという見方ではなく、どちらがフランス語の語感の美しさを表現出来ていて、かつ歌詞として明快に理解できる歌になっているか?
という点が評価基準となるのではないでしょうか?
つまり、ステージプレイは学問の論証の場ではなく、ひたすら芸術表現であることです。
もし発音が不明瞭で良いのなら、わざわざ読むのに苦労するフランス語の歌を歌わずともいくらでも名曲はあるでしょう。
歌う以上は、明快に美しく歌えるようになってほしいと思うわけです。
さて、フランス語らしい歌唱、もう一点大きい所では、フランス語の朗読に近い音律を感じているかどうか?ということになります。
フランス語は、通常会話ではセンテンスの中にアクセントがほとんど存在しません。
例えば、先日亡くなった著名なテノール歌手のニコライ・ゲッダ氏。
つづりを書くと、Nicolai Geddaとなり、このDの二重子音の前は、必然的にアクセントになります。
しかし、これをフランス人が読むと、二重子音の前は一切アクセントや長母音になりません。
この発音を日本人が聞くと、二コライゲタ(井桁)としか聞こえません(笑)
これ本当です!
しかし、朗読の場合は、詩の韻律に合せたアクセント長母音が付与されます。
その代表が鼻母音です。
これらのことは、基本的には作曲家が音符で表現していますので、音符通りに歌えば問題ないはず、なのですが、
このフランス語の朗誦法をまるで知らないで音符を歌うことと、知っていて歌うことの差は驚くほど大きいです。
これを日本語に置き換えて考えてみてください。
お分かりになると思います。
発音の方法のディテールも大事ですが、まず朗誦を知ることが大事であることをご理解ください。
最後ですが、ここに書いたことはイタリア語にも当てはまる部分があります。
イタリア語は違うのではなく、イタリア語も同じなのです。
その意味で、結局日本語の朗誦を知ることが大切である、という自分の足元を良く知ることが、外国語理解につながる意味が、少なくとも歌唱においてはあることが判ると思うのです。
次回は、フランス語のステージ発音について、いくつか具体的な例について書いてみます。