頭声について考える
頭声という呼び方は、歌っている時に頭部に響くような感覚が由来であったり、あるいは頭部に響かせようとする意識を持つ必要から呼ばれていますが、実際は声帯の固有の振動の仕方です。
この振動の仕方は、高音発声の練習にとって必須ですが、低音発声にも声質の滑らかさや正しい音程を保障する要素になります。
弦楽器、特にバイオリンやチェロなどを使ったことがある人なら、わかると思います。
一本の弦をこするとしても、こすり方で、倍音だけの細く頼りない響きが出たり、しっかりした胴体に共鳴するような響きになったり、幅が広いです。
声帯が振動する構造も、この弦の振動の仕方や音の出方にとても良く似ています。
ところで、弦の鳴らし方の中に、フラジオレットとかハーモニクスという方法があります。
これは、フレットの抑え方と弦のこすり方で、細くて倍音の多い響かせ方の技法を言います。
実は、人間の声の場合は、ファルセット(裏声)がこれに良く似ていると思います。
想像してみてください。
ヴァイオリンでもチェロでも、弦楽器でこのフラジオレットを弾こうとすれば、絶対に力んで弦を擦ってはいけないことが想像できるでしょう。
しかし、力まないように、そっと弦を擦って仮にフラジオレットが出せたとしても、弓をあやつって、フラジオレットで音楽を奏でることがとても難しいことがわかるでしょう。
ファルセットも同じなのです。
人間でも、このファルセットが難しいタイプの人を多くみかけました。
指導経験から見ますと、大概がすでに発声訓練を受けた人に多いものです。
なぜかというと、力んで声を出すことに慣れきっているからなのです。
ファルセットによる発声練習が重要なのは、単に高音発声のためだけではなく、力まないで発声できるかどうか?という、基準点を持てるかどうか?という点に鍵があります。
基準点が確認できることで、悪い癖のついた発声をリセットするための、理論的な方法論が確立しやすいのです。
以下の3点が確認できると良いです。
1、まずファルセットの声が出せるか?
2、ファルセットで歌を歌えるか?
3、ファルセットから実声に移行できるかどうか?
以上確認できたことは、特に換声点以降の発声に影響しますが、中低音発声においても、声のピッチの問題や滑らかさに影響を与えると考えています。
このため、ファルセットでの練習も加えると、声域全体の発声に影響を及ぼす、と考えています。