しばしば声域の決定が問題になりますが、発声導入の初期において、声域を固定化するのは危険だと考えます。
私の考えは、基本的に低域発声から高音に伸ばして行くことが基本であると思いますが、中低域だけ強化する傾向が大きいと、換声点の通過が難しくなりますし、換声点以降の発声に特化すると、必然的に中低域の響きがなおざりになるでしょう。
このようにして出来上がった声を、これまで何人も診てきました。

換声点以降は、ファルセットの練習も取り入れつつ、中低音の発声も丁寧に作って行く中で、徐々に換声点の発声を進めて行くべきでしょう。
ファルセットは、後々に発声に柔軟さを覚えるために良い方法なので、忌避しない方が得策と考えます。
この点、ソロであれば、じっくり対処して行けば良い訳ですが、合唱の場合は問題になるケースが多そうです。
なぜなら、合唱団は入団してすぐに実戦ということになるからです。

喉の持つ可能性は非常に大きく、表面的に多少低音が出やすいからベース、多少高音が出るからテノールと決めつけられない要素があります。
この多少・・・という形容詞が曲者です。
場合によっては、決定を急ぐ事情のために、低音が出ないからテノールだソプラノだ、と決められているケースもあるでしょう。

合唱団の都合で、個人の声を無理やり捻じ曲げるのではなく、各人が無理なく発声できるパートを選ぶことを基本にして行くべきでしょう。
後は、日々の練習のなかで、声域を伸ばす練習を積み重ねるのみです。秘策などありません。

声域をある程度見てわかるには、前述のように未開発な発声による声域判断ではなく、喉仏の外観や骨格、背の高さなど、総合的な外形判断と、声質です。
声質というのは、声域と関係なく、各人の個性による声が持つ特質を表現しています。
それからなんといっても、練習をするモチヴェーションが曲の変化によって違う場合、そのことが声域と関連する場合に、声域の傾向が見つけられるでしょう。
いろいろな曲を練習してみて、やはり中低音のゆったり出せる歌が好きか?難しくても高音発声が活躍する曲を練習するのが好きか?
結局好き嫌いは、その人の大きなモチヴェーションにつながりますから。

もう一点、高音発声はその人の発声技術が持つバランスの良さを見る指標だと思ってます。喉という楽器は低音から高音まで有機的につながっているわけで、換声点で分断されていないです。そのため、どのような中低音域の発声をしているか?が高音発声に影響する部分はあると思います。