珍しい、ベルナックが歌う「仮面舞踏会」の録音。
ここで、ぼくが言いたいのは、なるほどベルナックと云う人は、声楽家の声の表現の幅を拡げた
偉大なバリトン歌手、ということ。

実は昔は彼の声は嫌いだった。
ところが、年を経るに連れて、彼の素晴らしさが分かるようになってきた。

つまりこうだ。

彼は、声楽家のテクニックをきっちり持ったうえで、フランスのプーランクのエスプリを声で
完璧に表現するために、わざと子供っぽい声やつやっぽい声や、バカバカしい歌い方を出来た云う事。
結果的に、いわゆる声楽家的なバリトン的美声を全面には出さないことになる。

つまらない歌手というものがあるとすると、このいわゆる型にはまった美声だけで、何でも歌う人の事だろう。

確かに鋳型にはまっているから、音楽が分からない人には「理解しやすい」のだ。
ああ、いい声ね!と。

しかし、どうです?このフランス語!
当り前だが、フランス語の面白さや美しさをこれほど現代的にクラシックの声楽家として実現した歌手は今でもいないだろう。

今のフランスの歌手は本当に個性がない、と言わざるを得ない。

それを多分人は「声楽家のグローヴァリゼーション」というのだろう。
昔、フランス留学の先輩が良く言ってたっけ「インターナショナルな演奏」って。

糞くらえ!と云いたいね。グロヴァリゼーションとか、インターナショナルとか。

しかしこのプーランクのこのバカバカしいまでの子供っぽいエスプリ。
ラヴェルとサティの直系の弟子だ。