草津音楽祭のことを調べていて、偶然、ドイツの歌手ヒルデガルド・ベーレンスさんが亡くなっていたことを知りました。
それも音楽祭のために来日していた際に亡くなられたのだそうです。
彼女のことを知ったのは、トリスタンとイゾルデの録音からです。
素晴らしく伸びのある高音と、気品に満ちた演奏は、忘れられません。
自分の中ではこの彼女のイゾルデがイメージとして定着してしまいました。
このオペラは有名な前奏曲や、愛の二重唱など、有名どころも素晴らしいですが、私が惹きつけられる箇所は、トリスタンの従者クルヴェナールが、イゾルデに「トリスタンから上陸を急げとの伝言を・・・」ということへの答礼のアリアです。
トリスタンの命令に対する彼女の反抗を説く箇所です。
54分35秒くらいから始まります。
ちなみに、ベーレンスさん、ブレスの度に肩が上がりますが、これは胸呼吸ではなく、腹筋をしっかり使うために胸郭が持ち上がっているからです。
ワーグナーの楽劇は、恐ろしく退屈な箇所と恐ろしく美しい個所の対比が大きく、聴きとおすのが大変ですが、それは歌詞を理解できないという理由も大きいです。
しかし、歌詞が理解できなくても、伝わってくる何か?を感じるための、忍耐との戦いを潜り抜けると、はっきりと見えてくる美学が素晴らしいです。
口当たりが良い甘いジュースや美味しいワインだけで喜んで酔っぱらったり、温泉につかって「うぃ~!」とか唸るだけでは、真の芸術理解の喜びを得ることは出来ないでしょう。
真の美の喜びを得るためには、禁欲と戦う!
正にワーグナー晩年の最高傑作である「パルジファル」に、それがあるのではないでしょうか?