私はモーツアルトの作品は何を聞いても嫌いなものはないですが、シュトラウスは好き嫌いがはっきりします。
どうもシュトラウスは、ワーグナーとマーラーのいいとこ取りをして、微妙に甘い調味料を聴かせて大衆的にしたような雰囲気がするところに、商業的な匂いを感じるのです。
コンセプトが二番煎じの域を出ないのに(失礼)、とても人気がある。上手いです。

その中でも、彼が最晩年に書いた歌曲集「4つの最後の歌」は死にたくなるくらい深い味わいを感じさせる作品です。
もう人生終わったな、と云う時にこういう境地に至るのかな?と思います。そうであれば、これほど幸せな最後はないのかな、と思わされるのです・・・
ルチア・ポップさんは、この歌曲では驚くほどの深みと陰りのある表現を見せてくれます。

4つの最後の歌より「眠りにつく時」

シューベルトもシューマンも、或いはベートーヴェンもマーラーもワーグナーも、何か死に対するある種の憧憬のようなもの。
人生に対する諦念というようなものを感じさせる音楽を書きますが、これなどもその典型です。
大きな夕日が静かにゆっくりと沈んで行き、空は蒼黒くなり最後は暗い戸張が降りる。

トリスタンとイゾルデの世界も明けない夜だし、宮沢賢治の「夜の銀河鉄道」も明けない夜で終わるように、死に対する感情を芸術作品にまで高めようとする時に
至高の作品を産み出すことが多いように思います。

モーツアルトは、フルーティなドイツのワインの香りがします。快活でありながら神秘的です。
このルチア・ポップさん、モーツアルトを歌わせると、このような爽やかな白ワインの味わいです。

モーツアルトのLaudate dominum K321

やはりオーストリアの空気を吸って育たないと、このような味わいは出せないのでしょうか。実に素敵です。